シーン6:静かな確定
歩きながら、私は先ほどの結論をもう一度なぞった。
反芻というほどの熱はなく、
舌の上で転がすという表現も大げさだった。
ただ、確認する。
好みではない。
その判断に、感情が付随していないことを、
あらためて確かめる。
嫌悪も、警戒も、失望もない。
胸のどこにも、引っかかりが残っていない。
それは結論としては、
驚くほど軽かった。
だからといって、
行動方針が即座に変わるわけではない。
王子を避けるつもりはなかった。
挨拶を無視する理由も、
会話を拒む必要も見当たらない。
同時に、
近づく理由も存在しなかった。
距離は、自然に保たれる。
縮める努力も、広げる意思も要らない。
この世界は、
距離が動くことで物語が始まる。
偶然が重なり、感情が連鎖し、
選択が加速していく。
だが、今はそのどれもが起きていない。
導火線は濡れていて、
火花が散る場所もない。
物語のエンジンは、
ここでも点火しなかった。
静かさは不安を呼ばない。
むしろ、正確だった。
私は自分の歩幅を変えず、
次の教室へ向かう。
世界は何も要求せず、
私も何も約束しない。
その均衡だけが、
確かに成立していた。




