シーン2:商人との実務的交流
定期市は、特別な賑わいを演出することなく、淡々と機能していた。
露店は規則正しく並び、人々は必要な物を見定め、必要な分だけ金を払う。
主人公もまた、その流れの中に溶け込んでいる。
干し果実を並べた商人の前で足を止めたとき、会話は自然に始まった。
「最近は、少し値が動いていますね」
主人公の言葉に、商人は肩をすくめる。
「街道の補修が遅れていまして。運ぶ手間が増えると、どうしても」
それは愚痴ではなく、状況説明だった。
続いて話題は、旅路の安全性に移る。盗賊が出たという噂はあるが、被害は限定的で、昼間に通る分には問題ない。
天候の話になると、商人は荷の痛みを気にして、布の掛け方を工夫していると教えてくれた。
どの話題も、感情を呼び起こすものではない。
情報としてやり取りされ、必要な分だけ受け取られる。
商人は親切だった。
だが、踏み込まない。
どこから来たのかを尋ねることもできただろう。
長旅かどうかを推し量ることもできたはずだ。
それでも、商人はそうしなかった。
主人公もまた、自分から語ろうとは思わない。
語る余地は確かにある。
しかし、この場では、その余地が意味を持たない。
干し果実を買い、代金を渡す。
商人は礼を言い、次の客へと視線を移す。
主人公の来歴は、この市において評価されない。
隠されてもいないし、暴かれることもない。
ただ、必要がないだけだった。




