シーン7 偶然の支配権移行
境界は、いつ越えられたのか分からない。
関所を抜け、道を進み、標識が減り、
気づいたときには、王国の名を示すものは視界から消えていた。
主人公は、すでに王国を離れている。
それは逃走ではない。
追放でも、決別でもない。
単に、管理の及ばない場所へ移動した結果である。
ここで、ある種の確定が静かに成立する。
彼女は、物語的管理領域を抜けた。
進行表も、想定進路も、評価基準も、もはや彼女には適用されない。
以後の進行は、偶然に委ねられる。
だがそれは、試練の開始ではない。
物語が新たに彼女を試すわけでも、
別の筋書きへ導くわけでもない。
ここで初めて、
物語は彼女を導かない。
試さない。
期待しない。
世界もまた、彼女を登場人物として扱わない。
名前は呼ばれず、
背景は説明されず、
行動に意味は付与されない。
世界は、ただ存在する。
道として、天候として、宿として、人として。
主人公は、その中を移動する。
目的を掲げず、
役割を背負わず、
結末を意識しないまま。
この章は、
勝利でも敗北でもなく、
始まりでも終わりでもない位置で閉じられる。
それは、
物語が終わった後に始まる移動である。
語られる必要のなくなった存在が、
語られない世界の中を、
ただ進んでいく。
ここから先、
起きる出来事は物語にならない。
だが、生活としては続いていく。
その事実だけが、
静かに確定する。




