シーン4:最初の偶然
街道を進む途中で、雨が降り出した。
予兆はなかった。
雲の流れを読む必要も、空の色を警戒する理由も、彼女は感じていなかった。
ただ、最初の一滴が落ち、次の瞬間には、外套の肩口を濡らしていた。
彼女は足を止め、外套の紐を締め直す。
それ以上の対応は取らない。
急ぐ理由も、立ち止まる理由も、どちらも存在しなかった。
雨は、しばらく降り続いた。
街道沿いの小さな宿場に辿り着いたとき、宿の主人は簡潔に告げた。
「今夜は相部屋になります」
謝罪は添えられなかった。
説明も、特別な配慮もない。
単に、空きがないという事実だけが示される。
主人公は短く頷いた。
条件が変わったわけではない。
選択肢が一つに減っただけである。
部屋には、すでに別の旅人がいた。
年齢も、出自も分からない。
互いに名を名乗る必要性は感じられなかった。
荷を下ろす際、ほんの短い会話が交わされる。
「雨ですね」
「そうですね」
それだけで終わる。
行き先は問われない。
理由も、背景も共有されない。
この出来事は、伏線ではない。
意味を要求しない。
後の展開を約束しない。
主人公も、それを「イベント」としては認識しなかった。
雨が降り、宿に入り、相部屋になり、言葉を交わした。
それ以上でも、それ以下でもない。
だが、ここで一つの変化が成立している。
彼女は、この出来事を
解釈しようとしなかった。
良い兆しでも、悪い兆候でもなく、
物語的必然でも、転機でもない。
ただ、起きたこととして受け取った。
この瞬間、
物語的解釈を放棄した受容が、初めて成立する。
世界は、何も語らない。
そして彼女も、意味を引き出そうとしない。
偶然は、説明されず、
そのまま、そこに留まっていた。




