シーン3:王国の外側への移行
街道は、ある地点を境に、少しずつ表情を変えていった。
舗装は途切れ、補修の跡が増える。
均一だった石畳は、粒の揃わない砂利へと変わり、歩調にわずかな注意を要するようになる。
それでも、境界線が引かれているわけではない。
変化は、連続している。
標識が減る。
距離や目的地を示す板は、古く、文字の薄れたものが点在するだけになる。
方向を示す矢印は、修正されないまま、過去の意図を残している。
やがて、王国の紋章が視界から消える。
掲げられていた柱も、刻印された石も、ただ見当たらなくなるだけだ。
撤去されたのではない。
配置されなくなったのである。
ここで起きているのは、劇的な断絶ではない。
門が閉じられるわけでも、境界を越えた実感が与えられるわけでもない。
ただ、管理の密度が下がる。
主人公は、その変化を身体で理解する。
進路を指示するものが、存在しない。
進むべき方向も、避けるべき選択も、外部から与えられない。
想定されている行動が、ここにはない。
誰かが用意した順路も、期待される振る舞いも消えている。
その結果、
間違いという概念自体が、曖昧になる。
正解がない場所では、誤りも成立しない。
彼女が足を向ける先がどこであっても、
それを修正すべき理由は、誰の側にも存在しない。
ここから先、
彼女がどこへ行くのかは、
誰にも想定されていない。
そして、それは放置ではない。
世界が、初めて彼女に進路を委ねたという事実だった。




