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シーン2:身分の縮小
宿の部屋は、街道に面した簡素な造りだった。
窓から見えるのは、城壁ではなく、次の町へ続く道だけである。
主人公は荷を広げ、持ち物を一つずつ確認する。
動作に迷いはない。
まず、装飾品を外す。
指輪、留め具、細工の施された小物。
価値があるからではなく、必要がないから、布に包み、別の袋に入れる。
次に、家名を示す証を取り出す。
それは身分を否定するためではない。
使う予定がないという判断に基づき、携行品から外される。
衣服も同様だった。
仕立ての良いもの、高価であることが分かる布地は選ばない。
動きやすく、目立たず、説明を要しないものだけを残す。
これは変装ではない。
誰かを欺く意図もない。
彼女は自分が誰であるかを、手放してはいない。
ただ、それを外部に提示する理由がなくなっただけだ。
語られなければならない立場ではなくなった。
記録される役割も、期待される属性も、ここには持ち込まない。
袋の口を結び、残すものと置いていくものが分かれる。
選別は、感情を伴わず、整理として完了する。
この時点で、主人公は、
肩書きによって識別される存在ではなくなる。
彼女はこれから、
説明される人物ではなく、
ただ、通過していく一人の旅人になる。




