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第9章:旅立ち シーン1:出立の事務処理
行政拠点は、王国の端に置かれた建物らしく、機能だけを残した簡素な造りをしていた。
装飾は最小限で、壁に掲げられた紋章も色あせている。
主人公は窓口に進み、旅券を差し出す。
係官は受け取り、顔と書類を交互に見比べる。
問題はない。
荷物検査は形式的だった。
袋の口が一度開かれ、すぐに閉じられる。
中身に興味が向けられることはない。
「滞在目的は?」
問いは短く、声にも抑揚がない。
「特に決めていません」
係官は一瞬だけ手を止めるが、眉を動かすことはない。
目的地の欄は空白のまま、次の項目へ進む。
法律上、問題はない。
身分証明は有効だ。
不審な挙動も見当たらない。
それ以上、確認すべきことは存在しなかった。
帳面に印が押され、旅券が返される。
係官は淡々と告げる。
「お気をつけて」
それは祝福ではない。
別れを惜しむ言葉でもない。
この窓口で、無数に繰り返されてきた定型句の一つだ。
主人公は受け取った旅券をしまい、軽く頭を下げる。
背後で、次の申請者を呼ぶ声が上がる。
手続きは終わった。
感情は挟まれず、意味も付与されない。
彼女の出立は、
一件の処理として、ここで完了する。




