第8章:学園の終わり シーン1:選択としての終了
机の上に、進路書類が並んでいる。
学園指定の用紙はどれも似た色合いで、紙質も、記載欄の配置も、過去に何度も見慣れたものだった。
卒業。
あるいは、自主退学。
制度上、どちらも選択可能であり、どちらを選んでも、実務的な結果はほとんど変わらない。
そのことを、主人公は最初から理解していた。
彼女は椅子に腰掛けたまま、書類を手に取る。
目を走らせるが、熟考する様子はない。迷いもない。
選択肢が二つあるという事実自体が、すでに意味を失っている。
逃げたいわけではなかった。
ここに居続けることが苦痛になったわけでもない。
誰かの期待を裏切ったという感覚もない。
そして何より、
この先に対する不安が、ほとんど存在しなかった。
未来が見えているからではない。
逆に、未来に対して「何かを果たさなければならない」という前提が、消えているからだ。
彼女は、ふとペンを置く。
ここで終わっている。
そう判断しただけだった。
物語的に見れば、途中なのだろう。
まだ対立も解決も、劇的な別れも描かれていない。
だが、彼女自身に割り当てられていた役割――
ヒロインであること、物語を起動させる存在であることは、すでに消滅していた。
始まらなかったものは、終わらせる必要すらない。
彼女は淡々と、該当する欄に印をつける。
その行為に、決意や覚悟は含まれていない。
ただ、処理であり、確認であり、区切りだった。
書類は静かに机の上に置かれる。
部屋の空気は何も変わらない。
物語は続いているはずなのに、
彼女の中では、すでに一区切りがついていた。




