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シーン3:世界の戸惑い
学園の中庭では、友人たちが芝生の上に座り、何気ない会話を交わしていた。王子とヒロインが近くを通り過ぎても、誰も息を詰めたり、視線を注いだりはしない。形式上、二人の関係は正しく保たれている。挨拶も礼儀も、すべては整っている。
それでも、心の片隅に微かな違和感が残る。恋愛イベント――誰もが期待する物語の進行――が、まったく起きていないのだ。
友人たちは肩をすくめ、笑いながら口にする。「まあ、何も起きていないね」
それは非難でも疑問でもなく、単なる観測の声だ。
王宮の側近や学園の教師も同様だ。帳簿や日誌を確認しつつ、「予定通り進んでいない」と認識する。しかし、修正すべき明確な理由は存在しない。異常がない以上、手を加えることもできない。
世界は、小さく戸惑った。だが、日常はそのまま流れる。
進まない物語と、問題のない日常が同居する。静かな停滞が、確実に息づき始めていた。




