表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲーのヒロインに転生するも王子が好みではない  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/20

シーン4:王子との遭遇

回廊は、移動のためだけに存在していた。

授業と授業のあいだを縫うように、人が流れていく。

立ち止まる者は少なく、会話も短い。

ここでは物語は滞留しない。


私はその流れの中にいた。

目的地を意識し、歩幅を揃え、

特別なことを期待せずに。


そのとき、空気がわずかに整った。


説明するほどの変化ではない。

ただ、ざわめきが均され、

歩調が一瞬だけ揃う。


視線が集まる方向を、

人は無意識に避ける。

そこに王子がいた。


側近が一歩半、後ろに控えている。

距離の取り方が正確で、

それ自体が役割を示していた。


すれ違うだけのはずだった。

だが、王子は立ち止まった。


「おはよう」


声は落ち着いていて、

周囲を圧迫しない音量だった。

名前を呼ばれ、私は足を止める。


態度は完璧だった。

親しみと敬意が、

過不足なく配分されている。


そこには、好意があった。

提示ではなく、前提として。

最初から配置されていたものが、

予定通り表に出ただけだ。


私は礼を返す。

形式に沿った、適切な角度で。


それ以上でも、それ以下でもない。


言葉は続かず、

王子は再び歩き出す。

側近がそれに従い、

流れは元に戻った。


回廊は、再び回廊になる。


胸の内を確認するまでもなかった。

鼓動は変わらず、

記憶の輪郭も曖昧なままだ。


この場面に、

イベント感はない。


起きたのは遭遇であって、

始まりではなかった。


物語は、

ここでも動かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ