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シーン2:感情反応の排除
昼下がりの回廊で、王子がふと笑いかけた。軽い冗談を口にする仕草に、好意的な視線が添えられる。生徒たちは一瞬立ち止まり、そのやり取りをちらりと観察する。
だが、主人公は微動だにせず、視線を返すだけで足を止めない。口元に笑みも浮かばず、声の調子も平坦だ。表面的な礼儀は完璧に維持され、無難に応答するだけ。
王子は眉を軽く上げる。反応はない。だが、問題は起きていない――その事実を彼は淡々と認識する。異常でも、無礼でも、拒絶でもない。
周囲も、心配する必要はないと判断する。側近は目を細め、友人たちは笑みを浮かべながら歩き去る。感情的摩擦も、誤解も生じていない。静かに、しかし確実に、世界は事態を「異常なし」と処理した。
主人公は変わらず歩き続ける。
王子の視線も、世界の期待も、何も彼女を動かすことはできない。
それでも、表面的な秩序は維持され、日常は崩れない。
だが、微細な停滞の芽は、静かに確実に生まれていた。




