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第7章:世界の再計算 シーン1:記録係の定常業務
王宮記録局は、いつもと変わらず静かだった。淡い燭光が帳簿の頁を照らし、インクの匂いが漂う。記録係は椅子に腰を下ろし、規則正しい動作でページをめくる。定例の帳簿整理だ。行事の実施状況、王族の公的動向、学園から届いた定期報告──それらを一つずつ確認し、記録を更新していく。
その中に、いつもの項目があった。
「王子―学園生徒」関係性推移。
記録欄には、簡潔な文字が並ぶ。
発生:なし
変更:なし
補足:経過観察中
記録係は、ページを撫でるようにして文字を確認する。異常ではない。何かを咎める必要も、説明を付す必要もない。ただ、日付を更新する。今日もまた、未発生期間が、数字として静かに積み上がった。
帳簿の行間を縫う静寂の中で、何も起きなかった事実だけが、淡々と確定されていく。




