シーン4:側近の沈黙による固定
執務を終えた控室は、必要以上に静かだった。
王子は上着を外し、椅子に腰を下ろす。向かいには側近が控えている。だが、そこから先が続かない。通常であれば、業務の締めとして簡潔な助言が添えられる。今日の振る舞いについて、あるいは今後に向けた微調整について。
その言葉が、出てこない。
側近は沈黙している。
逡巡ではない。配慮でもない。
助言するための根拠が、存在しないからだ。
王子は視線を上げ、側近の表情を確認する。困惑も警戒も見当たらない。職務に忠実な、いつもの顔だ。改めるべき点がない以上、言葉を足すこと自体が越権になる。その判断は、側近として正しい。
だからこそ、この沈黙は解釈できない。
不満ではない。
支持でもない。
沈黙は、評価を拒む。
肯定も否定も与えず、ただ現状をそのまま置いていく。
王子は理解する。
この沈黙が続く限り、自分は修正されない。
改善も、後退も、促されない。
動いても、動かなくても、結果は変わらない。
それは停滞ではない。
逸脱もしていない。
ただ、現状が固定される。
控室の時計が、規則正しく時を刻む。
王子はその音を聞きながら、次の行動を考えようとする。しかし、選択肢は増えない。減りもしない。
側近は一礼し、静かに下がる。
扉が閉まったあとも、空気は変わらなかった。
王子は、変わらない自分が、この世界では正しいままでいられることを、否定も肯定もできないまま受け入れていた。




