シーン2:ヒロインに関する思考(拒絶に至らない理解)
公的行事を終え、王子は控えの間で外套を預けたまま、しばらく動かなかった。周囲には側近の気配があるが、話しかけられることもなく、静かな時間だけが流れている。
彼の思考は、自然と一人の人物へと向かっていた。
ヒロインとの過去のやり取りを、順に辿る。
挨拶の仕方に失礼はなかった。
立場を利用した圧力もかけていない。
冷遇と呼ばれるような対応を取った覚えもない。
また、逆の事実も存在しなかった。
露骨に避けられた場面はない。
言葉を拒まれた記録もない。
態度で線を引かれた感触も、思い返せば見当たらない。
王子はそこで、一つずつ条件を外していく。
無礼ではない。
敵意でもない。
拒絶でもない。
では何か。
彼は結論を急がず、あくまで事実として整理する。
好意を否定されたわけではない。
しかし、応答も返ってきていない。
その状態を、彼は「曖昧」とは呼ばなかった。曖昧とは、どちらかに傾く可能性を含む言葉だ。だが、彼女の態度には傾きそのものが存在しない。
ここで、「拒絶された」という解釈は、彼の思考の選択肢に含まれなかった。
拒絶とは、意思表示である。
否定とは、選択である。
そして彼女は、どちらも示していない。
王子はその結論に、不満も安堵も覚えなかった。ただ、それが最も整合的で、誠実な理解だと判断しただけである。
やがて側近が次の予定を告げる。王子は短く頷き、立ち上がる。
彼女が意思を示していない以上、問題は存在しない。
問題が存在しない以上、修正も対処も必要ない。
そう整理したまま、王子は再び公的な顔へと戻っていった。
起きなかった応答だけが、説明されないまま、彼の内側に留まり続けているにもかかわらず。




