シーン5:主人公との再配置された距離
悪役令嬢は、解放される。
だが、それは誰かに許された結果ではない。努力が報われたという物語的な達成でもない。
恋愛という評価軸が、消失した。
それだけのことである。
誰かの視線に応える必要はなく、比較の列に並ぶこともない。勝敗を示す場も、退場を宣告される瞬間も、訪れなかった。彼女はその中心に立っていたわけではなく、いつの間にか外されていた。
これから彼女が配置されるのは、
政治。
実務。
組織。
感情の起伏を必要とせず、物語性の薄い場所だ。そこでは称賛も断罪も起きにくい代わりに、成果だけが残る。
物語は彼女を追わない。
主題から外れた存在として、視線は別の方向へ向かう。
だが、彼女は消えない。
舞台を降りるのではなく、照明の届かない位置へ移るだけだ。役割を失ったまま、それでも世界の一部として、確かにそこに在り続ける。
章は、静かに閉じられる。
断罪されない悪役は、物語から救われたのではなく、物語に必要とされなくなっただけである。その状態こそが、彼女に与えられた、唯一の解放だった。




