シーン6 章の終端:観測される空白
世界は平穏を保っていた。
鐘は定刻に鳴り、授業は滞りなく進み、食堂では決まった量の食事が配られる。誰も遅刻せず、誰も罰せられない。日常は、支障という言葉を必要としないまま、正確に消費されていく。
それでも、複数の視点が、同じ空白を観測していた。
そこにあるはずだった進行。
語られるはずだった感情。
共有されるはずだった緊張。
いずれも欠けているが、欠陥とは呼べない。失われたのではなく、最初から配置されなかったように振る舞っている。
主人公はそれを、特別な違和感として抱かない。
友人たちは、理由を問わないまま日常に戻る。
教師は判断を保留し続け、側近は報告の機会を持たない。
世界は、進めない理由を持たない。
それでも、進めない。
初めてその状態が、継続可能なものとして成立した。
止まっているわけではなく、選択されていない。動けないのではなく、動かないまま保たれている。
この章は、その静かな空白を残して終わる。
次に世界が行うのは、修復でも介入でもない。
不成立を放置できなくなった世界が、再配置や代替ルートを試み始める、その前段階である。
物語はまだ壊れていない。
ただ、行き先のないまま、確かに続いている。




