シーン5:不成立の認識
ある日、特定の場所でも、特定の時間でもなく、その認識は行き渡った。
誰かが宣言したわけではない。会議が開かれたわけでもない。ただ、同じ理解が、別々の思考の中に、ほぼ同時に置かれただけだった。
物語は、始まっていない。
しかし、失敗もしていない。
進行が止まったのではなく、そもそも起動していない。異常と呼ぶには静かすぎ、問題とするには根拠が足りなかった。それは欠陥ではなく、状態だった。
誰もその言葉を口にしない。
「不成立」という語は、どの会話にも現れない。
それでも、否定はされなかった。
友人たちは笑いながら話題を変え、教師たちは判断を保留したまま日常業務に戻り、側近は報告書の余白を白いまま閉じる。各々が、同じ結論を、各々の立場で受け入れている。
主人公もまた、その中にいた。
彼女は何かを成し遂げた感覚も、何かを逃した感覚も持たない。ただ、世界が一つの選択肢を選ばなかったことを、静かに理解していた。
物語は壊れていない。
始まっていないだけだ。
その事実が、共有され、しかし宣言されることはなく、学園の日常に溶け込んでいく。誰も否定せず、誰も確定させないまま、物語は「不成立」という形で、確かにそこに存在していた。




