シーン4:説明不能という共有
学園のあちこちで、同じ種類の言葉が、別々の声で発せられ始めていた。
廊下の片隅、図書室の受付、行事準備の合間――いずれも公式ではなく、記録にも残らない場所である。
「理由は分からないけれど……」
そう前置きしてから、誰かが首を傾げる。
「特に問題はないんだけどね」
その言葉は、疑念よりも確認に近い。続く沈黙には、追及の意思が含まれていない。原因を探そうとする動きは、どこにも生じない。
主人公に問題はない。
礼儀は正しく、規律を守り、評価も安定している。
王子に問題はない。
態度は一貫しており、立場にふさわしい距離感を保っている。
悪役令嬢に問題はない。
努力は可視化され、非難される要素も見当たらない。
それでも、恋愛イベントは成立していなかった。
誰かが何かを欠いているわけではなく、誰かが何かを誤ったわけでもない。ただ、起こるはずだった進行が、起こっていない。
説明不能という事実だけが、学園の空気に薄く共有されていく。
断片的で、軽く、しかし否定されることもない。
物語は、問題のない登場人物たちに囲まれたまま、不成立という状態を静かに受け入れられ始めていた。




