23/68
シーン3:側近の内的報告
控室は簡素だった。王子の執務室に隣接し、必要最低限の机と書棚だけが置かれている。側近は窓際に立ち、外の回廊を行き交う生徒たちの動きを、無意識のうちに視界に入れていた。
観測は続いている。
王子と主人公。
王子と悪役令嬢。
そして、その二人の間に生じるはずの関係性。
距離は保たれている。崩れていない。かといって、深まってもいない。時間だけが経過し、数値化できる変化が発生しない。報告書に落とし込もうとすると、文は途中で止まる。
失敗ではない。
停滞とも言い切れない。
予定されていた進行が見られないだけで、現実としての支障はない。王子の執務は滞らず、学園の秩序も維持されている。結果を求められる場面では、常に「問題なし」という結論が成立してしまう。
側近は一度、口頭報告を想定して思考を組み立てた。
だが、理由が存在しない。
理由のない違和感は、報告として成立しない。
彼は書類を整え、何も書き加えないまま机に戻した。違和感は、記録されず、共有されず、個人の内部に留まる。
控室には静寂が戻り、王子の執務を妨げる要素は一つも増えなかった。




