シーン2:教師による制度的確認
職員室には、一定の静けさがあった。紙をめくる音、羽根ペンの先がインクに触れる微かな気配、時計の針が刻む規則正しい間隔。教師たちは机を挟み、いつも通りの確認作業を進めていた。
成績。
規律。
生徒間のトラブル。
一覧表に並ぶ項目は、どれも滑らかに処理されていく。数値は基準を満たし、報告は簡潔で、修正を要する箇所はない。誰も声を荒げず、誰も判断を急がない。制度が期待する平穏が、きれいに保たれている。
一通りの確認が終わったところで、年長の教師が書類から目を離さずに言った。
「……想定していた動きが、見られませんね」
その言葉は、疑義というより補足だった。誰かが問い返すこともなく、別の教師が穏やかに頷く。
「ええ。ですが、問題ではありません」
想定、という言葉は記録欄には存在しない。
起きていない出来事は、評価の対象にならない。規則に照らせば、対応すべき事案はゼロである。
沈黙が流れ、羽根ペンが再び動き出す。
その一言は、議事録に残されることもなく、備考欄に書き込まれることもなかった。
判断は下されなかった。
否定も肯定もされないまま、その観測は保留という形で棚に置かれる。職員室の空気は変わらず、制度は静かに、何も起きていないという事実を承認していた。




