第4章:観測者たちの違和感 シーン1:学園友人の雑談としての違和感
昼休みの中庭は、いつも通りだった。
日差しは強すぎず、噴水の水音が会話の隙間を埋めている。主人公はベンチに腰掛け、友人たちと焼き菓子を分け合っていた。話題は課題の締切や、次の行事、誰かが落とした本の噂――どれも、昨日と何一つ変わらない。
その流れの中で、ふと、一人が思い出したように言った。
「そういえば……何も起きてないよね」
声は軽く、確認というより独り言に近かった。別の誰かが、間を埋めるように続ける。
「もう噂の一つくらいあってもよさそうなのに」
笑いが起きる。からかう調子でも、期待を煽る響きでもない。ただ、天気の話をするのと同じ調子だった。
主人公は視線を上げ、噴水の水面に反射する光を一瞬だけ見た。否定する理由も、肯定する理由も見当たらない。彼女は何も言わず、頷きもしなかった。
「まあ、静かなのはいいことだよね」
誰かがそうまとめ、会話は次の話題へ移る。
焼き菓子の粉が指先に残り、誰かがそれを払い落とす。笑い声は続き、昼休みは予定通り消費されていく。
違和感は、問いにすらならなかった。
それはただの観測結果として、軽く共有され、冗談の皮を被ったまま空気に溶けた。問題は発生せず、物語も始まらない。
中庭には、何も起きていないという事実だけが、静かに置かれていた。




