20/68
シーン7 章の終端:静かな逸脱
私は、自分が何かを壊したとは思っていない。
壊す意図も、手応えもなかった。
選ばなかっただけだ。
踏み込まなかっただけで、
押し倒したわけでも、
引き裂いたわけでもない。
悪役令嬢も、
勝ったとも負けたとも感じていない。
彼女は今日も、
自分の位置に立ち、
与えられた役割を遂行している。
ただし、
何かを奪われたという認識はない。
二人のあいだで、
物語的な決着は生まれていない。
だが、
物語構造の側だけが、
静かに逸脱している。
予定されていた線路は外され、
分岐は発生しなかった。
代替ルートは、
まだ敷かれていない。
それでも、
世界は止まらない。
鐘は鳴り、
日付は進む。
物語は壊れていない。
破片も、軋みも、
表面には見えない。
ただ、
行き先を失ったまま、
しばらく立ち尽くしている。
誰もそれを異常とは呼ばない。
異常を告げる音も鳴らない。
だが、
次の一歩が用意されていないことだけは、
確かだった。
章は、
静かに閉じられる。
その静けさの中で、
世界は初めて、
「どう進めばいいのか」を
考え始めている。




