シーン2:理解の確定
椅子に腰掛けると、思考は自然に整列を始めた。
混乱はなかった。散らばった記憶を拾い集める必要もない。
最初から分類され、番号を振られていた書類を、
ただ確認していくような作業だった。
学園の名前が浮かぶ。
王国の地形、気候、権力構造。
貴族家の序列と、そこに配置された人物たち。
それらは知識としてではなく、
前提条件として頭の中に収まっていた。
私は、思い出したのではない。
接続したのだ。
そして、その接続先がどこかも、すぐに分かった。
乙女ゲーム。
恋愛を軸にした、選択肢と好感度で進行する世界。
私はその中心に配置される存在――ヒロインだった。
理解は論理的で、感情を伴わない。
胸が高鳴ることも、背筋が冷えることもない。
喜びも、恐怖も、起きなかった。
「そういう設定なのだ」
その一文が、最も正確だった。
起きた出来事を評価するより先に、
仕様として受け取るほうが自然だった。
私は、自分に期待されている役割を整理する。
王子と出会う。
偶然を装った必然として。
恋に落ちる。
感情が先にあるのではなく、
進行の結果として。
そして、物語を成立させる。
誰かが満足する形で、
世界が納得する終わり方へ向かう。
それらは人生の選択ではない。
フローであり、手順であり、
達成条件が明示された工程だ。
だからこそ、そこに義務感はなかった。
逃げたいとも、従いたいとも思わない。
仕様は、実行されることを前提に設計される。
だが、必ず実行されるとは限らない。
私はまだ何も決めていなかった。
ただ、世界が何を想定しているかを、
正確に理解しただけだった。
その理解は、安心でも絶望でもない。
単に、物語の取扱説明書を読んだ、
という程度の出来事だった。




