シーン5:並走関係の成立
その後、特別な出来事は起きなかった。
協力を宣言する場面はなく、
秘密を打ち明ける夜も訪れない。
背中を預けるほどの信頼が、
積み上がることもなかった。
代わりに、
何も起きない状態だけが、
静かに続いた。
廊下ですれ違えば、
互いに道を譲る。
会話は必要な分だけ交わし、
それ以上を求めない。
相手の予定を探らない。
選択に口を出さない。
評価もしない。
互いの進路を妨げない。
必要以上に干渉しない。
その距離感が、
いつの間にか固定されていた。
それは、意志の表明ではない。
合意と呼ぶには、
あまりに静かだった。
だが、明確だった。
この関係には、
勝敗が存在しない。
主従も、対等も、
はっきりした名前が付かない。
物語的には、
非常に不自然な状態だ。
衝突も、和解も、
連帯も裏切りもない。
システム上では、
扱いにくい配置である。
フラグは立たず、
分岐も発生しない。
数値は変動せず、
関係性は停滞する。
それでも、
二人は確かに並んで進んでいる。
同じ道を歩いているわけではない。
だが、
互いの進行を邪魔しない速度で。
物語が求める形から外れながら、
関係だけが、
静かに成立していた。




