シーン4:理解の共有ではなく、理解の確認
彼女は、私の態度を見過ごさなかった。
視線が合ったとき、
わずかな間が生まれる。
敵意を探るには短く、
好意を期待するには長い。
その曖昧さが、
違和感として残ったのだろう。
悪役令嬢は、
言葉を選ぶように口を開いた。
「……あなたは、不思議な方ですね」
非難ではない。
探りでもない。
ただ、観測結果の提示だった。
「そうでしょうか」
私は即座に否定しない。
肯定もしない。
評価を避けた返答を返す。
彼女は少し考え、
続ける。
「私に、何も期待していないように見える」
その言葉は、
確認に近かった。
「ええ」
私は短く答える。
理由を添えない。
「同時に、
軽んじてもいない」
彼女自身が、
その事実に気づいたようだった。
私は否定しない。
肯定もしない。
沈黙が挟まる。
張り詰めることはなく、
崩れることもない沈黙。
この短い会話の中で、
互いに確認されたことは、
驚くほど少ない。
敵意がない。
期待もない。
だが、軽視もされていない。
それだけだ。
信頼は成立しない。
約束も交わされない。
協力の提案もない。
だが、
彼女の表情から、
わずかな緊張が抜けた。
それは安心ではない。
理解ですらない。
ただ、
物語を急がなくていい、
という感触だった。
互いに、
先に踏み出さないことを選ぶ。
それが暗黙の了解として、
静かに成立する。
この瞬間、
二人は同じ方向を見ていない。
同じ目標も持っていない。
それでも、
同じ速度で、
並んで歩くことだけが、
許容された。




