表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲーのヒロインに転生するも王子が好みではない  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/37

第1章:転生と理解 シーン1:目覚めと既視感

目を開けたとき、最初に思ったのは「遅れてしまった」という感覚だった。

何に対してかは分からない。ただ、起きるべき時間に起きなかったような、わずかな負債意識だけが身体の内側に残っていた。


天蓋の縁が視界に入り、淡い色のカーテンが静止している。

部屋は明るすぎず、暗すぎもしない。

朝というには完成しすぎていて、夜というには責任感がある光だった。


身体に違和感はなかった。

手足は思った通りに動き、呼吸も深さを誤らない。

むしろ整いすぎていることが、少しだけ気になった。


視線を巡らせると、机、椅子、クローゼット、窓。

すべてが初対面でありながら、配置だけは知っていた。

距離感も、用途も、触れたときの重さまで予測できる。


私はここに来た、という感覚はなかった。

代わりに浮かんだのは、

戻ってきた、という認識だった。


異世界という言葉は、出来事を派手にする。

だが、この部屋は出来事を必要としていない。

最初からここにあったものが、予定通りそこにあるだけだ。


ベッドを降り、鏡の前に立つ。

鏡の中の少女は、私ではなかった。

少なくとも、記憶の中の私とは一致しない。


それでも、驚きは薄かった。

心拍数は変わらず、声も出ない。


髪の長さ、瞳の色、整えられた輪郭。

どれもが過不足なく、意味を持ちすぎない造形だった。


私はその顔を見て、理解する。

これは「始まる前の顔」だ、と。


感情が描かれていない。

期待も、不安も、覚悟もない。

ただ、物語に差し出される準備が整った表情。


いわゆる――

ヒロインの初期状態である。


私は鏡から視線を外した。

納得はしていないが、否定もしない。


世界は、既に準備を終えている。

あとは私が動くだけだ。


もっとも、その必要があるかどうかは、

まだ誰も決めていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ