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S級美少女達とカードゲームでとても親しくなった  作者: 相野仁


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第一話

「あれ、あんたはたしか白山台しろやまだいくん……?」


 いきなり名前を呼ばれて固まった。


 俺の目の前には同じクラスの赤松結愛(あかまつゆあ)が、俺以上に愕然とした表情で固まっている。


 赤松は高校に入学していきなり有名になったS級の美少女だ。

 明るい性格で男子にも女子にも人気。


 さらっと女子にスルーされることも珍しくない俺にもあいさつしてくれるので、

悪い子じゃないと思う。


 入学して早々、十人以上の男子に告白されたとか、全員撃墜したというウワサもある。


 誰が呼んだのか、入学して三日目で早くも「太陽の撃墜王」なんてあだ名がつけられていた。


 ぼっちの俺はクラスのグループチャットに誘われていないので、みんながしているウワサ話を聞いていただけだが。

 

 そんな陽キャで一軍女子のトップの代表例みたいな子が、どうして俺のバイト先であるカードショップに?


 素直に考えるなら、入る店を間違えたというパターンだ。


 ウチのショップは外装だけなら喫茶店に見えなくもないので、たまに勘違いして入って来る客もいる。


 現に赤松は制服を着ていないかわり、モデルや人気インフルエンサーが着てそうな、トップスとズボンだ。


 店内にいる男性客がちらちらと赤松を見ている。

 人目をひく美少女ってこの子のことを言うんだな、と納得しかない。


 モデルやアイドルみたいなビジュアルのいい子が来る場所としては、正直適切じゃないと思うし。


「お客さん。ウチは喫茶店じゃなくて、カードショップなんです。それも『マギノコロッセオ』中心に扱ってます」


 頭が動き出せば舌も動き出す。

 説明したらUターンするだろうと思っていたら、


「知ってるわよ。まさか同じクラスの男子がいるなんて……店員なの?」


 赤松は意外なことに頬を赤らめつつ、勘違いしているわけじゃないと訂正する。

 彼女の視線は俺が来ているウチの制服に向けられた。


「ええ。ここ、俺のバイト先ですし」


 どうやら客として来てくれたみたいなので、敬語を使っておくか。


「マジで? 学校から離れた、穴場だと思ったのに」


 赤松は目を見開き、ぶつぶつと話す。

 よっぽど動揺しているのか、訊いてもいないことをぺらぺらとしゃべる。


「とりあえず中へどうぞ」


 入り口付近で立ち話をしているのも何なので、赤松を招き入れた。

 たぶん、あんまり身近な人に知られたくないのだろう、というのは推測できる。


「あ、ありがとう」


 赤松はちょっと気まずそうにしながらも店に入った。

 きょろきょろと店内を見回す。


 カードのパックとにらめっこしているちびっ子たちもいる。


「ウチはカフェ併設。フリー対戦はワンドリンク制だよ」


 と言う。

 店ごとでルールが変わる点を説明しておけばいいだろう。


 雰囲気的に初心者ではなさそうだし。


「フリー対戦希望なんだけど」


 と赤松は言う。

 間が悪いことに、みんな対戦中である。


 それにウチの客は俺と同類──陰キャのカードオタクが中心だから、赤松に話しかけられる勇気があるかどうか。


 俺だって同じクラスっていう接点のせいで、何となく自分をごまかせているだけだ。


 チラッとカウンターの奥にいる店長を見ると、うなずきが返って来る。


「じゃあ俺がつき合いますよ」


 と申し出た。


 対戦したいのにできない客を、なるべくいないようにってのが、店長の方針なのである。


「やれんの?」


 赤松から負けん気の強そうな視線と言葉を浴びせられた。


「できますよ。ところでカジュアルですか、ガチですか?」


 と問いかける。

 

 好きなカードゲームで楽しく遊びたいならカジュアル。

 勝つために全力でぶつかり合うのがガチ。


 俺が客と対戦するときは選んでもらっている。


「ガチに決まってるじゃない」


 赤松は即答だった。

 何となくそんな気はしていたけど、やっぱりガチ勢だったか。


 エンジョイ勢なら、べつに女子の友達と遊んでいいはずだし。


「では、ドリンクの注文をお願いします」


 忘れないように言っておく。


「あっ」


 忘れていたという顔してから、あせってカバンから財布を取り出す。

 こういうところは可愛らしいな。


「コーヒーか紅茶ある?」


「どっちもありますよ」


 と俺は赤松の質問に答える。

 カフェを名乗るくらいには両方用意しておかなきゃ、とは店長の言葉だ。


「じゃあコーヒーで」


「ミルクと砂糖はどうします?」


「両方つけて」


 この辺は流れるような言葉のキャッチボール。


「オーダー入りまーす」


 と言いながらカウンターの奥から出てきた店長に、注文を伝える。

 そして俺はガチ用のデッキを取った。


「じゃあここで対戦しましょう」


 窓ガラスのすぐ横にある席に行き、赤松を誘う。


「ええ。ルールは標準?」


 赤松は俺の正面に座りながら訊いてくる。

 この質問が出て来る時点で、かなりやり込んでいる人だ。

 

「まず標準でやりましょう」

 

「オッケー」


 俺たちはお互いのデッキを交換してシャッフルして返す。


「標準なので2本先取の勝負になります」


 と俺は告げた。

 ガチと言ってもこの場合はセルフジャッジとなる。


「よろしくお願いします」

 

 お互いにあいさつをしながら一礼。

 うーん、制服のときは全然気づかなかったけど、赤松って実はかなりデカいな。


 女子は視線に敏感らしいし、でっかい山を見ないように気をつけよう。

 

「ではコンバット!」


 と同時に言いながら山から手札を五枚ひく。

 先行は本人が希望したので赤松に譲る。


 さて、赤松はどれくらい強いんだろう?


「わたしのターン! 土地を一枚セット! コスト1を払って『ゴブリンの尖兵』を召喚! このクリーチャーの効果で、手札から『ゴブリンの尖兵』をさらに召喚!」


 赤松はいきなりクリーチャーを2体も出してくる。


「おっと」


 これって典型的なアグロデッキっぽい。


 低コストクリーチャーを序盤から大量に展開して、物量で相手を圧倒する超攻撃的デッキだ。


 手札が事故ったら瞬殺されるのもあり得る戦術である。


「じゃあ俺のターンですね」


 さてと。


「土地を一枚セット。そしてコストを3払って、『壊し屋ルーガ』を召喚!」


 赤松の表情を見て、『壊し屋ルーガ』のことを知らないと判断する。


「通常、クリーチャーは召喚したタイミングでアタックできません」


「知ってるわよ」


 俺の説明に怪訝な顔で答えた赤松は、ハッとした。


「そう。『壊し屋ルーガ』は【速攻能力】を持ち、このターンアタックできます」


「くっ」


 赤松の表情がくもる。

 美少女の困り顔を見ないようにして、俺は行動を宣言した。


「『壊し屋ルーガ』でアタック! このクリーチャーのパワーは3です」


「『ゴブリンの尖兵』でブロック!」


 『ゴブリンの尖兵』のパワーは2なので、『壊し屋ルーガ』の勝ち。

 赤松は『ゴブリンの尖兵』を自分の墓場に置く。


「さて、戦闘で敵をクリーチャーを破壊したので、『壊し屋ルーガ』の特殊能力が発動。山から三枚カードを墓場に置いてください」


「!?」


 赤松は驚きながら山札から墓場へ三枚カードを移動させる。


「さらにフラッシュカード発動。『再利用』。敵プレイヤーがカードを墓場に置いたとき、このカードはコストなしで発動できます」


「!?」


 俺の説明に赤松はふたたび驚く。

 

「と言ってもコスト2増加させるだけなんですけど」


 俺がくすっと笑うと赤松は顔をしかめ、


「よく言うわ。コストが『マギノコロッセオ』の生命線でしょ」


 と言う。

 おっしゃる通り。


 そのままターンは進行していく。


「あー、負けた! まさか二連敗だなんて!!」


 赤松は天井をあおいで悔しがる。

 本人は気づいてなさそうだけど、でっかい山が強調されちゃうんだよなあ。

 

 すぐに目をそらす。


「感想戦、やりますか?」


「やる!」


 赤松は即答した。

 

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― 新着の感想 ―
 おおー、カードゲームをきっかけに親しくなるとは…いいなぁ。
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