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(仮題)今だ世界は美しく  作者: ǝɹǝɥ sɐʍ ʎoɹןıʞ
プロローグ:"Basket Case"
4/5

ま、お前は吊るし首だろうよ

 ガシャン!と、格子の叩かれる音で目が覚めた。

「起きろ、これより聴取だ」

 起こされ方としては最悪だが、意外と目覚めは悪くない。


 未だ痛む身体を起こし、格子戸に近づく。

 空けられると同時に手枷を嵌められ、イカつい装備の兵士に囲まれたまま取調室に連れられる。


 入るや否や、突き飛ばされ、奥の壁にぶつかる。

 足枷こそ無いが、手枷で受身が取れないせいで顔面から行ってしまった。

 痛みに応えている間に入口が閉じられる。

「座れ」

 左の壁から声がした。

 おそらく、魔法の壁なのだろう。マジックミラーみたいなものだろうか。

 向こうからはこちらが見えているらしい。

「聞こえなかったのか? 座れ」

 言われるまま

 後ろ────入口から見て右の壁に備え付けられた椅子に座る。


「殺人、暴行、建造物破壊に……違法物品輸送。随分派手にやってくれたな、ええ?」

 相手は一切見えないし、隠匿魔法か何かでボイスチェンジャーみたいな声になっているが、なんとなく壁の向こうの取調官が笑っているのが目に浮かぶ。

「……ああ、全部やったよ」

 誤魔化すようなものは無いし、そもそも現行犯だ。特に否定はしない。

「3人くらい死んでる認識だよ。正確には何がどれだけなんだ?」

「死者3人、重傷4人──そのうち1人が死にかけで、軽傷1人ってとこだ」


「……そうかい」

「やけにあっさり認めたな」

「誤魔化す必要が無いからな」

「フッ……ハハ」

 何を笑ってやがるんだか。

「何か可笑しいことでも?」

「まさか、これだけだと思ってないよな?」

 おどけたように、別の声が言う。

 もう1人いたのか。

「何を───ッ!」

 思わず立ち上がるが、その瞬間全身が痺れ椅子に倒れるように座ってしまう。

 恐らく魔法で攻撃されたようだ。

「動いていいとは言っていない──! あー、お前。 名は?」

「ぐぁ……今かよ?」

 あまりに舐め腐った対応に苛立つが、どうしようもないため、答える。

「──ケイ、ただのケイだ」

 ふざけた名前だ、と聞こえた気がする。

「ケイ、ね。とりあえずこれで書類に必要な情報はそろった。 聴取自体は終わりだ」

 入ってきたドアの錠が開けられる音がした。

 まだ少ししびれる足で立ち上がり、部屋を出ようとしたとき、また壁から声がした。


「あー、でだ、ケイ。本当にさっきの罪状だけだと思っているのか?」

 ……脅しか? やはり司法も腐っているわけか。


「何が言いたいんだ? 俺が実はあと5人くらいいるとかか?」

「ああ、その通りだ」


 ────は?

 何を言ってるんだ?

「なぜわかった? 心当たりがあるってことか?」

「わざわざ罪を増やすアホがいるかよ、適当に決まってる」

 ああ、おそらく最悪のパターンを引いたみたいだ。

「お前によく似た人相で報告されている事件が何件もある」

「確証はないし、さっきお前は今回の犯行は認めてたから、まあ冗談みたいなもんだ」

「取り合えず、現時点でお前への刑はほぼ確定してるしな」

「ま、死ぬ前に変な汚名を追加で喰らいたくなけりゃ大人しくしてろってこった」

「「ハハハ……」」

 楽しそうな声に殺意が湧く。最も、相手にする価値はないとわかってはいるのだが。

 無視して取調室を出る。そのまま独房へ戻された。


 そうして、数日拘留された。

 ある日の昼、いつものごとくやることが無い俺はベッドに転がっていると、見張りの兵が俺の房の前に椅子をもってきて座った。

「よう、昼寝とはいい身分じゃないか」

 当然、無視を決め込む。

「フフフ……。」

 相手をする必要はないが、ツラくらいは拝んでやろうと横目に兵士の顔を見る。

「ま、お前は吊るし首だろうよ」

 ずいぶん楽しそうな顔だ、と思っていると急に驚いた顔をしだした。


 なんつー「無様な顔をしているのかしら」


 不意に、俺の考えていることが読み上げられた。

 女の声。 よく聞けば廊下からコツコツとヒールの音がひとつ……それと普通の靴の足音が2つ聞こえる。

 装備の音も聞こえるし、ひとりは兵士だろう。

「どいて下さる? (わたくし)、そこの囚人に用がありますの」

 よく通る、威厳のある感じの声だ。ということはまあ貴族のご令嬢ってとこか。


 ん? そこ?


  向かい──は空だ。ということは俺?

 だが俺に貴族令嬢の知り合いなんざ……

 そう考えているうちに、房の前にその令嬢が現れ、止まった。後ろにお付きもいるようだ。パッと見は普通──本当に普通の侍女といった風体。しかし目付きが異常に怖い。

 それを従える令嬢サマ本人と言えば、ワインレッドのシンプルながら目立たすぎないフリルや細かい装飾の施されたドレス、そこからは白く──それでいて病的ではない肌の腕、頭が生えている。

 赤紫がかった黒いロングヘアは僅かな風、彼女の動きでなびき、琥珀色の瞳がじっと俺を見下ろす。

 率直に言えば、美しかった。

 隣の芝は青く見えるとは言うが、不毛の地から見ればより美しく見えるものだ。その補正を加味しても、やはり美しい。そしてどことなく恐ろしい。

 すると、さらに後続の兵士が房の前に立ち、口を開いた。

「面会だ。ヴァルモンド家長女、セレーネ・ヴァルモンド様だ。 くれぐれも、無礼を働くなよ」

 ヴァルモンド家? そこそこデカい家じゃないか。

 尚のこと縁がない。物理的なヘッドハンティングが趣味だったりするのか?


下がっていいわ、と令嬢サマ──セレーネが声をかけると、椅子に座っていた兵士ともども来た道を帰っていく。

どういう訳か、令嬢サマとその侍女、そして俺だけの空間になっていた。


「起きなさい、ケイ」


「──!」


 俺の名前を、知っている。

 まあ、知る術はいくらでもあるだろう。だが何故()()()()調べた?

 またしても嫌な予感がする。

 ひとまず起き上がり、ベッドに腰掛ける形でその令嬢に向き直る。

 向こうは変わらず値踏みをするような目でこちらを見下ろしている。するよう、と言うよりも、実際値踏みをしているのだろう。


「貴方に死に方を選ばせに来たわ」

 そう言うと、「アレを」の合図と共に侍女が瓶2つ──それぞれ紅い液体と青い液体が入っている──を出し、セレーネに渡した。セレーネはそれらを少し眺めた後、房の前に置いた。

 見たところ、赤い方は酒、青い方は魔法薬のようだ。

「コレは……?」

「その酒はこの周辺でよく飲まれているワインよ」

 ほう、盃を交わす的な話だろうか。

「──ただし毒が入っているわ。かなり苦しむタイプの毒。代わりに今日、ここで、すぐに死ねる」

 なるほど、これが"ここで死ぬ"の方だったか。

 手に取って見てみようと手を伸ばすと、バチッという音とともに手が弾かれた。

 魔法壁だろうか。流石はお貴族様。

「あら、手に取るのはまだ早いわ。最後まで聞いてからになさい。触ったらそれを飲んでもらうわ」

 なんだそりゃ、場末の露店かよ……


「どうしても今すぐ死にたいのなら、それでもいいのだけれど」

「じゃあ、そっちの薬はなんだ」

 青い薬を指さし質問を続ける

「そっちは見ての通り市販の魔力補充剤。そしてそれも──毒が入っている。 そして楽にも死ねない」

「は?」

 結局死ぬんじゃないか。いや、死に方を選べと言われているんだ。それはそうか。だが────

「こっちの毒は遅効性よ。飲んでも何も起こらないわ。けれど、少しづつ、少しづつあなたの身体を蝕み、死に至る。」

 ──後に苦しむとわかってなお、今を生きたいかということか。

「……どっちも魅力的だな」

「さあ、好きな方を選びなさい? ここで苦しんで死ぬか、いつ死ぬかも分からない中で生き続けるか。今、ここで」


 赤、青。交互に目を向ける。

「何故、こんなことを?」

 当然の疑問を投げてみる。

「理由が、必要かしら?」

 何を言っているのか、といった顔だ。


「……気まぐれに殺されるにしても、興味がある」

そう答えると、セレーネの表情が変わった。

「あら、てっきり命乞いでもするのかと思ってましたわ」

「足掻くだけ足掻いてから死ぬのが信条でね。 報いとか、贖罪とか、どうしようもない理由で殺されるならそれもいいかと思っただけさ」


 既に戦って、生き残ったんだ。ここで死ぬのもゴールとしては悪くはない──だろう。

 人殺しにふさわしいのは苦しんで悶えて死ぬことだろうしな。


セレーネは変わらず値踏みをしているようだったが、少しばかり口角が上がったように見える。

少しだけ、考えてみる。


この3年、自分のために生きて、戦って、ここまで来た。

裏切られて、人を殺して、捕まって。

戦って、死ぬべくして死ぬ。望んでいた死に方だ。


 だが───

 本当に満足かといえば、そうでもない。

 たとえ貴族の犬になろうとも、まだ足掻くことが出来るなら────




 立ち上がり、前に出る。


もしかすると、目の前のこの女は嘘をついていて、どちらを飲んでも、あるいは飲まなくとも惨たらしく殺されるのかもしれない。


「あんた──なかなかいい趣味をしてる」

「あら、それはどうも」


────だが、仮にそうだとしても、少なくとも自分の選択で死ぬんだ。後悔はあれど、納得できる。


「でも、どっちもお断りだ」

「……それはどうして?」


どうなったとしても、俺は今死ぬつもりもないし、他人の手で勝手に殺されるのもゴメンだ。


「言っただろう。俺が死ぬ時は"運の尽きた時"か"どうしようもない理由があった時"だってな。 今ここでこれを飲むのは、その両方に反する」

屁理屈だ。だが、それを通して死ぬなら、自分らしく生きて死んだと言える。

「ここであんたに逆らって殺されるにしても──」


ああ、でもやっぱり死ぬのは少し怖いな。

フゥ、と一息はいて、セレーネの顔を見る。


「──それは俺の選択だ」



ああ、選んじまった。

セーブ&ロードでやり直しもできないぞ。


「……フフ」


セレーネが不意に笑った。


「面白いのね、あなた」

セレーネの目付きが再び変わった。

なにか確信した顔に見える。

「……それは何より」


すると、セレーネは振り返り、侍女に声をかけた。

「アイーシャ、決めたわ」


「彼、持っていくわよ」


言葉の意味が、分からなかった。

「おい、そりゃ───」


どういう意味だ───?


そう、喋ったはずだった。

だが、その前に一瞬の痛みと共に意識が"落ちた"。

ロウ・ネストのギャング


・ロウ・ネストでは3大ギャングを中心とし、大小様々。


3大ギャング

  1. クロウズ・マーケット(Crows' Market)

   概要:スラムの闇市を仕切るギャング。人間、薬物など違法物品、情報、の売買が主なシノギ。

      金になるものは何でも取り扱う。やっていることは極めて冷酷だが、商人としての筋は通す。最近内部派閥で内紛が起きる可能性が高い。徹底した秩序と上下関係が特徴。


   恰好:黒い外套に烏の羽根を模した肩飾り。


   リーダー:〈帳簿屋〉と呼ばれる謎の男。表に出てこず、取り巻きの「商隊長」が現場を仕切る。


   関与領域:資源や物資の配給、地下オークション、闇市のショバ代の徴収など。縄張り内の住民の生殺与奪を握っている。


   縄張り:ブリーチワークス地区


 2. 《ドッグヘッド(Dogheads)》

   特徴:暴力と数で支配する、もっともチンピラ然としたグループ。

      喧嘩、恫喝、襲撃などの現場系犯罪に特化。麻薬の売人や借金取りを多く抱える。


   スタイル:犬のドクロを模した面や刺青がトレードマーク。喧嘩殺法や即席武器を得意とする。


   リーダー:元賞金稼ぎの〈マストン〉。筋骨隆々、知性より暴力に寄ったタイプ。

        脳筋に見えて意外と切れ者。


   関与領域:借金回収、用心棒、縄張り争い、ストリートの実効支配。

        配下の中小ギャングを含めるとメンバー数は最多。


   縄張り:ドックピット地区


 3. 《ラザロ団》

   特徴:「神の名を騙る聖職者崩れ」たちの宗教ギャング。教会を模した装束を身につけつつも、背後では薬物の製造や処刑、洗脳を行う。信仰と狂気の境界にある組織。


   スタイル:血染めの白い法衣、赤い十字の刺繍。常に賛美歌や祈りを口にしている。


   リーダー:〈預言者ユダ〉。口先で群衆を煽るカリスマ狂信者。


   関与領域:薬物製造と配布、住民の思想支配、異端者狩り。信者は「祝福」と称して薬物に依存している。


   縄張り:ノー・ヘイブン地区



*南方辺境警備団 ドックピット地区 酒場乱闘事件 資料 容疑者"ケイ"の所持していたメモの写し

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