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(仮題)今だ世界は美しく  作者: ǝɹǝɥ sɐʍ ʎoɹןıʞ
プロローグ:"Basket Case"
3/5

昼食、ベッド、トイレ付きの豪邸

「こちらは南方辺境警備団! 貴様は完全に包囲されている! 早急に武器を捨て投降せよ!!」

 いくら東の端にあるスラムの方といえども騒ぎを聞きつけてきたか。

 わかった。わかった。おとなしく投降しよう。

 もとよりこういう暴力は好きじゃないんだ。戦うのは最後の手段でいい。


 わかりやすくナイフを掲げ、両手を挙げたまま店の出入り口に立つ。

 向けられた弓は引き絞られ、剣、槍はじりじりと距離を詰める。

 ああ、意外と短い人生だったな、と思いにふけりながらナイフをゆっくりと前方の足元に投げる。

 一人の兵が構えた姿勢のまままま小走りで近づくと、転がったナイフをさらに離れた場所へ蹴り飛ばす。

 そのまま何をするでもなく取り囲まれ、捕縛される。

「お前みたいなのが好き放題馬鹿しでかすから俺たちゃ帰りが遅くなって女房にキレられるんだ。舐めやがって」

 剣の柄で頭を殴られる。ゴッという鈍い音とともに視界はブレ、ぼやけ、グワングワンと揺れる。結構、いやかなり痛い。意識を何とか保持したまま、相手を睨み返す。

 暴れるつもりもなかったが、そもそもそんな体力は残っていない。

 むしろ護送馬車に乗り込むのが遅すぎてもう1発殴られた。

 せっかくの逮捕者が死ぬぞ。いいのか。




 ……3,4人は殺しただろうか。

 この世界、この国の法はほとんど知らないが、開拓真っ最中の西部でさえ殺人は罪だ。複数人ともなれば、速攻で処刑台送りで絞首刑にでもされるのだろう。

 悪くない人生だった……とは決して言えないが、少なくとも足掻いて生き残って見せたのだ。

 何も無い状況から始まったと思えば、上出来だろう。


 護送馬車の中、なぜこうなったのか考えていた。

 思えば、ある時から元締め連中からの当たりがやけに強くなった。

 確かあれは品数と報酬の不一致を指摘した時だったか。

 あの時は露骨に嫌な顔をされた上に黙って従えと殴られたものだ。

 頭が白と言えば白、黒と言えば黒になる世界なのだと思っていたが、今になってみれば計算と識字ができたからか。

 恐らく、このまま俺を放置すると厄介な存在になると判断したのだろう。でなければこんな運び屋一人、ああやって大げさに殺しのマトにかけたりはしない。


 ────つくづく詰めが甘かった。

 もう少し賢くありたいものだ。


 ガタン、と大きな音と共に馬車が揺れる。

 胡座をかいて座っていたため転がりこそしないが、尻に決して弱くは無い衝撃が走る。

 門をくぐったらしい。見る限り、馬車が貴族街に入ったようだ。

 道のガタツキは少なく、護送馬車ですら快適な乗り心地だ。

 最も、受ける視線はより強烈になったように感じる。

 思えば貴族街にしっかりと入ったのは初めてだ。たかだか数kmほど離れただけでここまで異なるのか、と貧富の差を改めて実感する。

 確かに俺がこっち側だったらこの生活を捨てたくは無いね。


 蔑んだ目で見るやつ、値踏みをするような目で見るやつ、露骨に視線を逸らすやつ。

 ふむ、いざ死ぬ前となると案外余裕があるのだろうか。

 なんだか貴族の観察日記でもつけれそうだ。

 獄中出版で財を成してやろうか。まあ、書いたところで発禁は間違いなしだろうな。


「フフ」


 小さく笑った。俺ではない。

 馬車の御者か、横の兵だ。何で笑ってるのかは知らないが、どいつもこいつもクソ野郎だよ。


 ──そんな連中にいいように使われる俺は何なのかって?

 考えたくないね。



 しばらく走り、貴族街を西へ横断した。

 見世物のようにしっかりと貴族連中に手足を縛られた俺をお披露目した後でこうやって辺境警備団の駐屯地に連れてこられる。最短距離ではあるが、容疑者のメンタルを挫くのに合理的な経路でもある。

「降りろ、到着だ。」

 後続の馬に乗っていた兵士が格子の扉を開ける。

 枷で思うように動かせない足に苦戦しつつ、降りる。

「さっさと動け、この野郎」

 背中を押され、転びそうになりつつも前に進む。

「これでも全力だ。速く動いて欲しけりゃ枷を外しな」


「黙って歩け!」

 今度は棒で叩かれた。さんざん殴られまくった後の体に響く。

 全く。暴力ってのは本当に便利だよ。



「入れ」

 独房まで連れられ、入れられる。

 俺の体が入ると、すぐに数人に剣を向けられ、手足の枷が外される。

 枷を外した兵たちが房を出ると同時に扉が閉ざされる。仕事熱心なことだ。


 さて、死ぬと決まった訳では無いがほぼ確定とみて良いだろう。

 実感が無いが、案外皆こんなものなのかもしれないな。

 余裕綽々な死刑囚だって途中からいつ執行なのかで震え、最後には泣き叫ぶという。俺もそうなるんだろう。


 ふと外に目をやれば、わざとらしく開けられた格子窓から、縄の下げられた処刑台が見える。

月明かりに照らされた輪縄が風で妖しく揺れている。

 鬱陶しいくらい考えられた構造をしている屯所だな。全く。


 することもなければ、したいこともない。

 備え付けの質素──というよりももはや半壊したベットに転がる。

 ベッドがギシギシと音を立てて軋む。今にも崩れそうだ。

 だが、冷静に考えれば今まで住んでたバラックよりも恵まれている。

 がっちりした壁と天井があって、おまけにベット、トイレ備え付きで昼食もある。星3つ。


 疲労困憊の状態で寝転がったせいか、急に睡魔が襲ってきた。

 このまま目覚めた時に3年前の現実に戻してくれれば良いのだが 。

 3年の夢。少なくとも昏睡状態になっていそうだ─────。

 いつの間にか、吸い込まれるように眠っていた。




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