この狂った世界を美しく感じる心は果たして正常なのか
世界は残酷だ。当たり前のことだが、不条理と不平等が渦巻く中、時間だけが平等に流れていく。
魔法というのは本当に便利だ。魔力さえあれば、誰にだって科学も化学も同じようにできる。
だが、その力を思い思いに行使できるのは一部の選ばれし者達だけ。操る術を持っていても、操る機会がなければ無力と同じ。
機会と術、あるいは操れる者を引き込める金。そのいずれかを持つものが魔法の恩恵を享受し、持たざる者たちはそのおこぼれに与るか、糧にされるかだ。
ごく一部の天才たちは、おこぼれから成りあがる。
聞いた話では、貧困にあえぐ一人の男が隣国の皇帝だったか皇太子だったかを魔法武器で殺害し、大きな戦争に発展したことがあるらしい。
……どこかで聞いたような話だ。最近も別のシマでチンピラが元締めを始末して乗っ取ったとか、そんな話があった。歴史は繰り返すというが、こういうことを言うのだろうか。
内容や規模感が違うのは、繰り返しの世の中にも諸行無常が言えるということだろうか。少なくとも、俺の人生も変革を迎えていた。街の喧騒は騒がしさこそ変わらずとも、その内容は常に移り変わる。彩の無い街並みもまた、その時々の空模様でその表情を変える。
赤みがかった夕暮れの中、野次馬に囲まれる一つの酒場。
割れた窓から差し込む夕日に照らされる店内に、俺は立っている。
手には血に塗れた粗雑なナイフ、足元では割れたグラスやボトルの破片が夕日と血だまりを反射し、紅く輝いている。
そして、あたりには8人の男が転がっていた。ほとんどはうなり声をあげているが、数人はピクリとも動かなかった。
やっちまったなァ────。
ぼんやりとした頭ではそんなことを考えていた。
何発も殴られたせいか、頭がうまく動いている気がしない。
ああ、差し込む夕日に照らされる街がきれいだ。ただの夕焼けのはずだが、なぜか純粋な気持ちでただ雲の形に息を飲んでいた。この狂った世界を美しく感じる心は果たして正常なのか。
外が騒がしい。これだけ騒ぎを起こせば当然か。
「こちらは南方辺境警備団! 貴様は完全に包囲されている! 早急に武器を置き投降せよ!!」
ああ、今のはボーっとした頭でも聞き取れた。




