王城戦『後編』
なんの為に、四大英雄達と関わりを持ち続けて来たか。なんの為に、わざわざ冒険者ギルドが用いる能力測定装置をより、精密にしたか。
全ては異世界人の能力を把握し、残す為だ。認めよう、彼等は強い。国を救ってもらった事にも感謝している。──だが、一度も。一片たりとも、ファルサリアは彼等を信用していなかった。
その考えが実を結び、今の状況に対処できたのだ。
「グロリア!! 先駆けを頼む!!」
ユウキは剣を構え、体制を立て直すと緊張感を持った声で号令を出した。
「まかせて」
「あまいわ!!」
ファルサリアはグロリアの声に被せて命令を出す。グロリアが先駆けをするのもこちらは把握済みだ。
大規模魔術ではなく、まずは爆煙と爆風に特化した魔法がくる。しかもその魔法は、炎だけの呪文ではない。土魔法と風魔法──三属性を混ぜたもの。
「やれ!! 一号、三号、四号!!」
「遅いのよ! なにもかも! 咎を穿く灼炎の風!!」と、グロリアが叫ぶ前、イロアスとユウキは後退。
無論、無詠唱を可能としているグロリアの方が一手早い。迫り来る大火は風に乗り、散らばった砂塵が燃やすだけの炎にプラスして、切り裂く効力を与える。
「「グギガガギギグガ……ガガギギギグ」」
──だが。
「なっ!?」
「お前達が私に教えたではないか。三本の矢じりの話を」
二人が水魔法を使い、炎と砂の勢いを殺し風魔法でぶつかり生じる煙もろとも押し返す。
「このっ!!」
大波をグロリアは炎を帯びた土壁で防ぐ。なるほど。土壁だけでは、水の衝撃を防ぐ事しかできない。それを炎を纏わせることにより、気化させるのか。
「しかし、こちらはまだ七体居るぞ!!」
まずは経験の浅い、息子のイロアスからだ。
「八号! 二号! やつをやれ!!」
「ガギギググゲゲゴゴゴゴガ!!」
もはや解読できない詠唱の後、二体は足に風を纏わせ、空を斬り裂く鋭い音と共に突貫。天井が崩れ落ちる音が鳴り響き、イロアスは空から硬い地面に叩きつけられた。
「グロリア!! どうした? その程度か!?」
所詮は魔法同時発動。複数人で束ねれば大して変わらない。無詠唱と詠唱の差は出るだろうが。その程度だ。
「残りは、ユウキを殺れ!」
「ダダダギギギババグガガガ!!」
ユウキに関しても、固有スキル【聖剣】【魔剣】を持っているが、これだって対人特化。魔王の因子を混ぜたコイツらは、都市一つを一刀のもとに吹き飛ばせる力が無ければ一掃出来ないだろう。
何しろ、目と鼻の先に居るファルサリアに一歩も近づく事すら出来ない現状が物語っている。
次第に爆発音や打撃・剣撃の音は止み、瓦礫が崩れる音のみが空気を揺らしていた。
「「グガガギギギグ」」
「終わったか」
傑作品は各々、三人の首を持ちファルサリアの前で膝をつく。 ここに至るまで、五分とかかっていない。
「一世を風靡した勇者達の命がたったこれぐらいだとわ。実に儚いものだな」
ファルサリアは受け取った、蒼白した顔を眺めてから投げ捨てる。
「ナルサル、これより我々は異世界人討伐に打って出る。この先は、我々で国を守ッ──ガフッ」
──これは血。
零れ落ちる血を見て、ファルサリアの思考は一度止まる。一体誰の。ユウキ達の。いいや、奴らは今しがた駆逐した。なら、誰の。
腹が熱い。焼けるように熱い。この血は──
「まったく、グロリアも中々に絶望的な殺し方をするね?」
「何を言ってるの? 空想の中で死ねるのよ? 最高な最期じゃないのよ。しかも、最終的に殺したのは、ユウキ? 貴方よ」
声が遠くの方で聞こえる。誰の声。ファルサリアはこの声をしっていた。誰よりも恐れていた声を。
器官と食道に詰まる血をゴヒュゴヒュと吐き出しながら、ファルサリアは無意識に掠れながらも言葉を吐き出す。
「何故……お前達は生きて……」
「生きてって、当たり前ですわ。私達は貴方達からまだ何もされてないんですもの」
「そんな……い、つから……」
「いつ? そんなの、最初からよ」
その言葉はファルサリアに絶望を与えなかった。寧ろ救いのようにも聞こえていた。勝てる相手ではなかった。立ち向かおうとする夢すら抱くべきではなかった。
彼女は異世界人達は、この世界に降誕した神に最も近い存在。そんな化物達に勝てるはずなど。
だが、これで苦悩からは解放される。恐怖心に悩まされることも無くなる。この国の行く末を案じると、胸が痛まない訳では無いが──
それでも、今のファルサリアは救いの手が差し伸べられたのだった。あるいは、この気持ちすら偽りに過ぎないのかもしれない。
──原初の魔女の記憶と力を引き継いだ聖女・グロリア。彼女たった一人によって、謁見の間にて対峙した騎士・数十名。怪物・十名。そして、国王・ファルサリア=ロキニスは生涯に幕を閉じたのだった。