王城戦『前編』
「アイツらを使うのですね?」
マルクリアはファルサリアの命令にニタリと笑い、蔑むような表情で優輝達を見下す。正直、会話をしている最中に首を跳ねる事は容易であったが、せっかくの歓迎だ。柄を握る手を緩め、優輝は平坦な声音で問う。
「その、ファルサリアが今呼んだ奴らってのが、ユーラインで一番強いのか?」
「一番ではないが……一番に近い強さではあるだろうなぁ??」と、ファルサリアは自信満々な態度で答える。
──まあ、此処で一番だと認めた後に、敗北してしまえば言い逃れもできず。実質、力での敗北は認めざるを得ない状況を避ける為の戯言だろうが。
ファルサリアは優輝の思考内容なんてものを、知る由もなく雄弁に騙る。
「まあ、恐れるのも無理はない。この広い世界で一番に最も近いのだ。たかだか三人で勝てるはずもないからな。だが、私もそんなに悪魔ではない。お前達が刃を収め、国の為に生きると言うのなら、ぎゃくに報酬を与えよう。──どうだ?」
そうして連れてこられたのは、十人の異形なモノ。二足歩行する化物は、人の原型を最小限留めてはいるが、優輝が呈する人とはもはや呼べるものではない。ある者は腰から蛇のような尾が二本生え、自我を持っているのかウニャウニョと動いている。またあるものは、左右不対称の翼を生やし、爛れた顔で優輝達を見つめていた。
言葉にもなっていない歪んだ不協和音を口から漏らすもの達をみて。
「ほえー。こりゃあすげぇ」と、声を踊らせるイロアスの目は輝いている。横目に、優輝はファルサリアに言う。
「──あんた、中々に非道な事するな?? こいつら、元は人間だろ? なにをしたんだ?」
「なにをしたか? なんだ、勇者よ。傑作品等に感情移入でもしているのか??」
玉座に腰を深く据えるファルサリアの横で、ナルサルは悪いに表情を歪ませる。
「くはは! いい顔をするなぁ?! ユウキよ!! こいつらは禁呪を用いて魔獣と合成させた怪人!」
「おいおい……どこぞの錬金術師だよ。まったく、命を何だと思っているのかね……」
「馬鹿めが!! こやつらは奴隷。国の為に役に立てたのだ! 人生で最期に国民たる成就を成し遂げたにすぎん!!」
「で……話はそれで終わりか?」
優輝は耳をほじり、指先についたクソを吹き払うと頭をかきながらいう。
「さっさと、来いよ。なんなら、騎士達も同時にかかってこいよ。俺一人で、お前ら全員──ぶっ殺してやる」
「強気でいられるのも今のうちよ。やれ」と、ファルサリアが号令をだすと怪人は、飛びかかる。
ユウキがいくら転移者であろうと、この数を、力を前に勝てるはずがない。怪人──禁呪により、奴隷の体を半融解状態にし、魔王の因子と人の遺伝子を切り繋ぎあわせ再構築した者達。
魔王が扱う魔法は扱えずとも、元々扱えた魔法が使える事は立証済みであり、且つ身体能力は秀でている。
姿が一蹴消えたと錯覚する程の瞬間的移動に、理解が追いつく前──ユウキが居た場所では激しい打撃音が鳴り響いた。
「なっ!?」
ファルサリアの目で追う事は出来ない音速での攻防。それが攻戦一方だと分かったのは、壁に叩きつけられたユウキを目の当たりにした時だった。三呼吸のうちに繰り広げられた転移勇者と、国が生み出した怪人との戦闘。
それは、怪人優勢から始まった。
「いてて……こりゃあ、まるで魔王だ。グロリア、イロアス。出し惜しみは無しだ。三人、全力で行くぞ」
中々にいい状況判断だ。自分の力を過信せず驕らず慢心せず、冷静。だからこそ、魔王を討伐できたのだろう。
「だが、お前達が相手にするのは十人の魔王!! 勝てると思うなよ!!」