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宣戦布告

 ニヒルとブァニス達を利用してから一週間が過ぎた頃、優輝・グロリア・イロアスの三名はとある場所に来ていた。極楽浄土──魔王亡き今、天下泰平が約束された王国・ユーライン。


 その中心部。数多くの転生者、転移者の原住民では到底辿り着けない、未来的な知識と技術が成した大都会であり、王都メイデン。此処では鉄の馬車──車と呼ばれる物が街道を走り、高層とした建物が立ち並んでいる。

 その技術はスパイ防止法を用い、異世界人(われわれ)のみが知っている。


 ──全てはこの日の為に。


「貴様!! 独立だと?! 国王陛下が今までどれだけ、お前達を優遇してきたと思っている!!」と、謁見の間にて、公爵・マルクリア=ナルサルが地団駄を踏み、癇癪を起こしていた。

 マルクリアの荒々しい怒号は、空間一帯に緊張感を走らせる。

 瞳孔は狭め、鼻頭に皺を寄せて歯茎をむき出すマルクリアを見て、やれやれと溜息をついたのは四大英雄が一人、優輝だった。


 小馬鹿にしたような溜息は、必然的に警護にあたっている騎士達からの視線も集める。目線を通して感じる、悪意。そう、彼等は最初っから優輝達を良くは思っていなかった。


 それこそ、召喚されてからの数ヶ月は尊敬や賞賛で持ちきりではあったが。それも、魔王討伐に近くなればなるほど、彼等の粘り着いた嫉妬の悪意は増していった。


 直接聞いた訳でもない。何かをされた訳でもない。いいや、この場合は何かをする勇気すらないが、正しいか。兎に角、彼等は嫉妬はすれど感謝なんかしていない。


「落ち着け、マルクリア」

「し、しかし!!」


 嗄れた声で国王・ファルサリア=ロキニスはマルクリアの怒りをそのままに、御する。


「で、独立宣言はいいが……我々が拒めばどうするのだ??」


 重たい瞼を持ち上げ、優輝を射るその眼光は年老いても尚、老いる事の無い覇気を帯びている。流石は、覇王の異名を持つ国王だ。だが、そんな話は王国内での話で異世界の住人である優輝達には関係がない。


 この国に対して愛国心なんてものは存在しないのだから。


 ファルサリアの言葉を鼻で笑い、腕を組み直すとイロアスは嘲り言う。


「おいおい……そりゃあないぜ? ファルサリアさんよ。俺の可愛い弟がよ? アンタら王国の大切な民によって、裏切り殺されたんだぜ??」

「だが、彼等はイロアス殿。そなたが罰を下したのだろ? それならば、今後の関わり方を法的に作り替えるなどして」

「ファルサリア国王陛下。私達が言っているのは、罰をくだせばいいだとかの話ではございません」と、お淑やかで流暢な言葉を出したのは、原初の魔女・アリス=キテラであり、現代の聖女・グロリアだった。


「私達が言いたいのは信用問題の話です。今回の事だって、いつ起きてもおかしくなかったのですよ。いつの日も、人とは自分にない素質を妬み恐怖し。幸せを蔑み冒涜するモノ」


 原初の魔女・アリス=キテラ。アイルランドで初めて魔女と呼ばれた者。そんな彼女の最後は裏切りに終わった。


「私は断じて認めぬ。このような危険因子の独立など!! 国家存亡の危機になりかねん!! 異世界人風情が!!」

「マルクリア!! 良いから、お前は少し口を閉じていろ」

「しかし……ッ!! こやつらは、兵器といっても過言ではないのですよ!? その知識も技術も力も!! 管理をしなくては!!」


 マルクリアは優輝を睨みつけながら、苦言を呈している。


「黙れ!!」と、ファルサリアはマルクリアの危惧を遮り、上がった息を整えてから口を開く。


「配下が申し訳ない。だが──」と、ファルサリアは立ち上がる。


 マルクリアの言っていることは何ら間違っていない。異世界人を野放しにするという事は、彼等がいつ何時宣戦布告して来るか分かったもんじゃない。


 寧ろ、ユウキ達がいつか独立を切り出す事だって予測はしていた。非は確かに、あの冒険者にあるのかもしれない。

 四大英雄の子孫だ。対価として、土地を与える事もしよう。資源の共有だって許そう。貴族階級だって異世界人に与えよう。


 ──しかし、独立だけは許す訳にいかない。


 だからこそ、ファルサリアは準備をしていた。来る日のため──今日の為に。


「私としても、ユウキ達。お前達の独立を許す訳にはいかない」

「交渉決裂かあ。残念だ」


 ユウキは態とらしく落胆してみせるが、腰に滑らせた剣の柄に手を添えている。彼らもかれらとて、どうやら最初からその気らしい。とは言え、彼等は三人だ。この長い月日、ファルサリアとて、異世界人に頼りっぱなしの国にならない為の研究をさせてきたのだ。


 ──勝てる見込みは十分にある。


「んじゃあ、ファルサリアさんよ? アンタの首を貰おうか?」

「やはりそう来たか。だが、そう易々と我が首は取れぬぞ? イロアス殿よ」

「あ? 何言っちゃってんの? こんな人数、俺が出る幕ないっつうの。ぁあ、でも」と、イロアスはマルクリアを指さすと親指で首を掻き切る仕草を見せる。


「お前は俺が殺す」

「ふ、ふざけるな! 我は公爵だ!身分を弁えろよ!?」

「マルクリア、奴らを此処へ呼ぶんだ」


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