晩餐
「【暗黒魔法】は、その魂を使うってこと?」
『そうじゃ。それよりも、ほれ。飯をくわぬか』
「本当に食わなきゃ駄目かな……ちょっと食欲が」
見た目は油もしたたり、美味しそうであるが如何せん、臭いがキツイ。ニヒルが眉を顰めて躊躇っていると、ゼ=アウルクは長い溜息をついた。
『無理して食えとは言わぬが……ニヒルよ。うぬは強くなりたいのではないのか? 強くあれない、自分が嫌なのではないのか?』
直球の言葉はニヒルの真を射抜く。
「そうだけど」
『なら食べるんじゃ。何も、嫌がらせで言ってる訳ではない。魂から魔力を引き出すのに、遺伝子を体内に取り込んだ方が、より効果が増すんじゃ』
「……そうなの??」
『そうじゃよ。アル・フェレスは狼種。なれば、狼種の肉を喰らえば栄養値として、うぬの体に蓄積される。ゴブリン──達なら|緑鬼種と。それらを蓄える事で【暗黒魔法】は、真価を発揮するんじゃ』
ゼ=アウルクは続けて言う。
『なれば、食べるのも修行。生き抜く為には必要な事じゃろう? 確かに汚れた魂の器は必然的に汚染されておる。魔獣を食べる者など、この世に朕を除いて一人と居なかったじゃろう。──強くなる為じゃ、ニヒル』
ニヒルは食欲からではなく、覚悟から喉を鳴らし足をもぎ取り口元に運ぶ。息を止め、口を開けるのと同時に入り込む微かな空気だけでも、酷い悪臭が口内に広り、えずきそうになる。
涙目になりながらも、肉に歯を立てて食いちぎった。
「んぐっ……!」
肉は固く、凄い繊維質だ。旨みなんてものは一切なく、噛めば噛むほどに臭みと苦味が増してゆく。早く飲み込みたいのに、出来ない状況は正に苦行だ。
それでも何とか何時間かかけて、ニヒルは腹が限界に至る時まで魔獣・アル・フェレスの丸焼きを食べ続けた。
「ご馳走様でした」
『うむ。良く食べたの。これで少しは取り込んだ魂との干渉がマシになるじゃろうて』
「少ッ……ちょっとまって、アウル。もしかして、この一度切りじゃないの?」
『たわけ、一度きりの訳がないじゃろ。これから先も、うぬは魔獣を食らう。永遠とは言わずも、長い間はのう』
──地獄だ。