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人類悪

「聞きたいことは──」


【放電】を用いて、肉を焼きながらニヒルは幾つかの質問をゼ=アウルクにすることにした。


「まず一つは、アウルク。君は何故、僕の中に居たの?」


 魔王は父と母を含めた四大英雄に倒された。魔王・ゼ=アウルクの首も王・ファルサリアに献上されたと、史実として書物に記されていた。


 しかもそれだって、十七年以上も前の話だ。


『そんな事か』

「そんな事って……か……グロリアの敵でしょ?」

『そうじゃ。奴らは我が同胞を傷つけ、朕すらも手にかけた憎き敵ぞ。──なればこそ、じゃ』

「なればこそ?」


 肉をひっくり返しながらニヒルは問う。


『朕は敗北直後、魂をうぬの母の体内に忍ばせた。理由はただ一つ、力を蓄え乗っ取る為。じゃが、そこは流石の聖女と言うべきか。精神力、胆力が凄まじくての。中々に上手くいかなんだ。そこに都合良く、二つの命が育まれたって訳じゃ』

「なるほど。つまり、アウルク。君は、僕の体を乗っ取るつもりだったの?」

『そうじゃ』


 ゼ=アウルクは別段平気そうな声で、単調に答えた。そうじゃと、さも平然そうに言うが、乗っ取ろうとした本人を前に悪びれた様子一つないのは、流石魔王といった所だろうか。


 だが、魂を忍ばせたって話も、先程使った魔法を目の当たりにしたら納得せざるを得ない。でもなら、なんで乗っ取らなかったのだろうか。


「赤子のうちに自我を奪えば良かったんじゃ? ああ、僕が弱いから?」

『弱い……そうじゃな、感情移入……と言うやつじゃろうか』


 ゼ=アウルクは今でもニヒルの過去を鮮明に覚えていた。聖女と勇者から産まれたが故に行った降誕の儀。兄であるイロアスは転生者であり、二人の力をしっかりと受け継ぎ。


 方や、ニヒルは中途半端にしか受け継がなかった。その為、ニヒルの存在を知っているのは降誕の儀に参加した国王と教皇。そして、四大英雄達のみ。


 ニヒルは産まれながらに、亡きものとして扱われてきたのだ。そうとは知らず、彼は努力をしてきた。褒めてもらおうと、認めてもらおうと。


 だが──あの家族は一切、ニヒルを見ようとはしなかった。彼が流した涙も、苦しみも、全てが存在していないかのように。向けるのは無償の愛でも、慈しみでもない。醜悪なまでの冷たい蔑視と侮蔑。無関心ならまだ良かったと思えるほどの。

 いつしかゼ=アウルクは聖女達の代わりに、ニヒルの目を通して成長を見る事に不甲斐なくも喜びを感じていた。


「感情移入って、それは僕が弱すぎるから?」

『あほたれ。朕からしたら、大半が弱いわ。そうではない。うぬの生き方──生き様にじゃよ』


 外で遊ぶ事を許されてこなかったニヒルは、唯一ある窓から兄の修行や戯れを眺め、しかし、悲嘆に暮れる事なく室内で筋力の鍛錬や書物で学を独学で学んでいた。


 性根は腐れ穢れること無く、常に美しくあった。


「なんか、ありがとうね? アウルク」


 だからこそ、ゼ=アウルクは望んだ。望んでしまった。その想いが、その思考が矛盾である事をしりながらも、ニヒルと言う哀れな望まれぬ子の幸せを。


『別に構わぬよ。それに、うぬが朕の存在を知った方が効率的な部分もある』

「そう、なの??」

『そうじゃ。朕が扱う【暗黒魔法】は、魂を糧に扱う魔法』

「なるほど……魔力回路は心臓を中心に構成されていて、循環しているって書いてあったけれど……でも魂って霊的なモノに魔力が?」

『うぬ。魂とは言わば思念。そやつが生きた証拠。そこには必然的に深く染み付いた魔力が存在する。【精霊魔法】が生きている者の生命力を糧と使うなら、【暗黒魔法】は、死した者の魂を糧に扱う魔法』

「でも魔獣って魂すらない、ただ殺戮を繰り返す空っぽな物質だって。魔獣にもあるの? 魂が」


 ニヒル達は勘違いをしている。魂に触れる力があるからこそ、ゼ=アウルクは魔獣の存在を理解しているのだ。


『あれは……彼等(あれら)は、間違いなく人類に対しての絶対悪じゃ。人を淘汰する為に産み落とされた世界の膿じゃ』

「世界の──膿? つまり、どう言う?」

『輪廻転生を知っておろう??』


 ゼ=アウルクの問に頷く。数冊の本には確か、大海の最果てに浮かぶ孤島・エデンが存在しており。人が住まう事の出来ない厳しい環境の中で、そこには一柱の巨樹が聳えている。

 巨樹は生命の根幹。魂は巨樹に集まり、また次なる器へと魂を運ぶ役割があると等と書かれていた。その名も世界樹・セフィロト。とは言え、ニヒルは架空の話だと思っていた。これには幾つかの矛盾があるからだ。


『赤子は皆が、無垢の状態で産まれおろう? まあ、例外はあるが……それは今、省くとするかのぅ』

「確かに」


 赤子は転生してながらも、無垢であり無知。記憶なんか一切ない。自分が生前何をしていたのか、何を成していたのか。例外があるなら、異世界転生者(・・・・・・)ぐらいだろう。


『我々が無垢なる魂の転生先なら、魔獣は不純なる魂の転生先。魂を洗浄し、流れ出た汚れじゃ』

「つまり僕が死んだら、僕の魂は二つに別れるって事??」

『中々に理解が早くて助かるの。そう言う事じゃ。故に、魔獣は絶滅することもない。そして当然、彼等にも魂は存在しておるって事じゃ』

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