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迅雷の一端

「十七階層!?」と、声を大にしてニヒルは大袈裟に驚いてみせる。


「って、その十七階層ってのはどんなもんなの?」


 今回が初のダンジョンアタックであり、事前の情報も経験も皆無に等しいニヒルにとって、十七階層がどれ程のものか。想像に乏しくなるのも、無理はなかった。


『まあ、うぬは知らないで当然じゃな。十七階層は、一級冒険者であれば、一ヶ月半程度の時間を掛けて降りるものじゃ。お前を騙しおった、二級冒険者なら二ヶ月以上かかるか──あるいは、死ぬか。そんな所じゃよ』

「つまり、えっと……ちょっとごめん。これ、詰んでない??」


 ニヒルの表情に一切の余裕がなくなり、顔色は悪くなる。一級と二級の差も驚いたが、その一級レベルが一ヶ月半も掛かるって事は、それだけ敵も強くなり、下の階層に降りるのが至難になるって事。


 つまりここは間違いなく地獄。


『はて? いい修行場じゃろ。此処で、うぬは生まれ変わるんじゃよ』


 ニヒルの危惧をゼ=アウルクは、淡々とした声音でひょいとあしらう。


「修行って、いや、死ぬでしょ……する間もなく。兄だったら可能かもだけど……俺、魔法なんて【放電】しか使えないんだよ」

『これだから、引きこもりの卑屈ちゃんは困るのう』

「そこまで言います!?」

『うぬは、十七階層であっても魔獣を二匹は殺せたではないか。あの時、独自の戦い方の何たるかを掴みかけたのではないのかの?』


 ゼ=アウルクの誘導によって、ニヒルもあの時のことを思い返す事が出来た。


『うぬは、奴らからの仕打ちに腐らず、今まで武力はままならずとも、知力は蓄えて来をったではないか。なら、その知力を活かして限られた(・・・・)力を進化させれば良いだけのこと。──じゃろ?』

「そ、うだね。でも、ならまずは何から始めればいいかな」

『そこら辺は、そうじゃな。初っ端、十七階層で一から自分で経験を詰めと言うのも酷な話じゃし。初めは、朕が(おしえ)よう』


 ゼ=アウルクはまず初めに『では、まず初めに、体に放電をし続けるがよい』と指示を出し、ニヒルはそれに従う。


 このやり方は一つ間違えると、体がつったり転んだりしてしまう。だが、一定の電圧の負荷を掛けることにより、筋肉が鍛えられる事もわかった。


 ニヒルは試行錯誤しながら、電圧で筋力を鍛え、電気信号で強制的に指示を出し体を動かし続ける。こうすることにより、筋肉痛になったとしても、体を動かす事が可能となった。


「あの敵は、なんてやつなんだ?」


 当然、ニヒルが居る場所は寝室や訓練所ではない。安心安全ではなく、いつ何時も危険が隣り合わせなのは変わりがない。


『あれはうぬが倒した魔獣、アル・フェレス。俊敏さと強靭な牙を併せ持つ、黒毛の狼じゃな。主に、三、四匹で行動しておる。──つまり』


 ニヒルの眼前には二匹しかいない。ゼ=アウルクの言葉が本当なら。


「まだ他に隠れてるやつが居るってことか」


 だが、それなら都合がいい。隠れているうちに、目の前で低い唸り声をあげてるアル・フェレスを倒す事が出来たなら。


 思考は決意に変わり、覚悟は握り拳に変わる。


「うらぁぁぁあ!!」


 雷電を体に這わせ、ニヒルはぎこちなく拳を振り上げて眼前の魔獣・アル・フェレスに突っ込む。だが一向にアル・フェレスは襲ってくる気配がない。


 なんなのだろうか、この違和感は。嫌な予感は。だが、駆を始めた足はもはや止まらない。


『早計すぎるわ、バカモノ!! 上じゃ!!』

「上ッ!?」


 空を鋭く切る音が鼓膜を掠め、遅れて訪れた風圧がニヒルの髪や服を揺らす。


「……ッ!? 一体俺は、何をしたんだ?」


 電気信号により、意識を凌駕した反射神経が体を動かし、その殴打はさながら一条の槍が如くにアル・フェレスの体を穿いた。



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