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労働

主人公が再び腰を上げ、作業を続ける決意を固めたその瞬間、先ほどの人物がもう一度声をかけてきた。


「おっと、ちょっと待て。」


主人公はびっくりして顔を上げる。人物がにやりと笑いながら、手にしていた道具を指差した。


「お前、これで全ての草を取ったと思ってるのか?」


主人公は少し困惑した表情で道具を見つめた。確かに、だいぶ草を取り除いたような気がしたが、どうやらそれは一部に過ぎなかったらしい。


「え、まだ…?」


「そうだ。あの辺も、こっちの端も、まだ草が残っている。」


指示を受けると、主人公の視線が畑の奥の方へと移る。そこにも、いくつか草が生えていた。


「そんな…」


疲れた体を引きずりながらも、主人公は再び手を動かし始める。まだやらなければならないことが残っている。それが、どれだけ長い道のりであっても、途中で投げ出すわけにはいかない。


再び草を引き抜いていくと、今度は少しコツをつかんだ感覚があった。少しずつではあるが、効率よく作業を進めることができるようになっていた。やっぱり、最初のうちは全然うまくいかないものの、慣れてきて動きがスムーズになっていく。


「おい、いいぞ。その調子だ。」


再び声がかかる。その声に、主人公は息を切らしながらも顔を上げ、少しだけ微笑んだ。


時間が経つにつれて、だんだんと畑の作業が終わりに近づいてきた。しかし、まだ少し残った草が主人公を待ち受けている。だが、その残りの部分を無理なくこなすことで、主人公は次第に自分の成長を実感し始めた。


やがて、最後の一株の草を引き抜くと、主人公は地面に膝をつき、深く息をついた。


「終わった…」


それと同時に、思わず胸の中で安堵の息が漏れた。手のひらには汗がにじみ、腕は鉛のように重いが、どこか達成感のようなものが湧き上がってきた。


「お疲れ様、よくやったな。」


その言葉に、主人公は小さく頷き、へたり込むことなく立ち上がった。


「いや、ありがとうございます…」


案内してくれた人物がにやりと笑った。


「でも、今日はこれだけじゃない。今度は水やりだ。お前の仕事はまだ終わらないぞ。」


主人公は一瞬、愕然とした表情を見せたが、すぐに気を取り直して頷いた。


「わかりました…頑張ります!」


畑の作業は続く。今日一日だけで体力が限界を迎えたように感じても、まだまだこの先がある。だが、主人公はすでに心の中で決めていた。どんなに辛くても、少しずつでも成長し、無職という過去を乗り越えなければならないのだと。


そして、次の作業に取り掛かりながら、主人公はまたひとつ、確実に前へと進んでいった。


主人公が再び作業をしていると、案内してくれた人物が突如、重みのある言葉を口にした。


「よし、正式に雇ってやる。」


その一言に、主人公は作業を一時止めて、目を見開いた。今まで自分のような無職を雇うなんて、想像すらしていなかった。しかし、相手の目は真剣そのもので、冗談ではないことがすぐに伝わってきた。


「え、でも…私、まだまだ未熟で…」


「気にするな。お前の働きっぷりは悪くない。逆に、少しの間頑張ってみて、その結果が見たかったんだ。あんまり思い詰めるな、出来ることからやればいいさ。」


主人公はその言葉に、心からの安堵を感じると同時に、少しばかりの不安が胸に湧き上がった。しかし、それでも何か大きな一歩を踏み出せた気がして、思わず顔を上げた。


「本当ですか? ありがとうございます!」


「もちろんだ。それに、せっかくだから部屋も貸してやるよ。」


主人公はその言葉に驚きながらも、すぐに思わず反応した。


「部屋…ですか?」


「うん。今のお前なら、家賃を払う余裕もないだろう。だから、ここで住んで、働いていけばいい。手を貸すのはこれからだしな。」


その言葉が、主人公の心に温かい火を灯した。思わず胸の奥が熱くなるのを感じた。


「本当に、いいんですか…?」


「お前がやりたいこと、頑張りたいことを持ってるなら、それで十分だ。後はやるだけだ。」


その優しさに、主人公はただただ感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。これからの未来が少しだけ、希望に満ちて見える気がした。


「ありがとうございます! 頑張ります!」


そして、主人公は新たな決意を胸に、これからの生活に向けて一歩を踏み出したのだった。


次第に、その部屋は主人公にとって家のように感じられる場所となり、畑での作業も日々の生活の一部として当たり前のものになっていくのであろう。今までの無職時代とは全く違う、充実した毎日が待っていることを、主人公は心から楽しみにしていた。

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