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初仕事は薬草採取

 翌朝、俺はプルとリンドを連れてアッシュ村の村役場へと向かった。村役場はこぢんまりとした木造の建物で、中に入ると人の良さそうな初老の男性がカウンターに座っていた。彼がこの村の村長兼、依頼の受付係も兼ねているようだ。


「おはようございます。昨日到着した者ですが、何か受けられる依頼はありますでしょうか?」

「おお、君か。昨日は驚いたぞ、あんな大きな……ええと、従魔を連れておったからな。まあ、大人しいようだし、問題ないなら構わんが」

 村長はリンドをちらりと見て言った。やはり相当目立っていたらしい。


「はい、リンドは賢い子ですから。それで、依頼なのですが」

「ふむ、今の時期だと、森の薬草採取や、周辺に出てくるゴブリンの討伐あたりかのう。報酬はあまり高くないが、安全な仕事じゃよ」


 村長が壁に貼られた依頼書を指差す。薬草『月見草』の採取、ゴブリン3体の討伐証明、畑を荒らすホーンラビットの駆除……どれも初心者向けの依頼だ。


(まずは様子見だな。薬草採取なら【収納∞】が活かせるし、安全そうだ)


「では、この『月見草』の採取依頼を受けさせていただけますか?」

「おお、そうかい。月見草は村の西の森に群生地がある。場所は地図に記しておこう。頼んだぞ」


 俺は村長から簡単な地図を受け取り、礼を言って役場を後にした。プルは肩の上で「ぷるっ!」と気合を入れたように鳴き、リンドも「きゅる」と短く鳴いて俺の後に続く。


 村の西の森は、昨日までいた森ほど深くはないが、それでも木々が鬱蒼と茂っていた。村長に教えてもらった場所へ向かうと、すぐに目当ての『月見草』の群生地を見つけることができた。銀色がかった葉を持つ、美しい薬草だ。


「よし、採取するぞ。プル、リンド、周りを警戒していてくれ」

「ぷる!」

「きゅる!」


 二匹に指示を出し、俺は月見草を丁寧に摘み取り始めた。普通の冒険者なら、採取した薬草を入れるための袋や籠が必要で、一度に持ち運べる量には限りがあるだろう。だが、俺には【収納∞】がある。


(収納、収納……)


 摘み取った月見草は、スキルを発動するだけで次々と無限の収納スペースへと送られていく。傍目には、俺が薬草を摘んでは虚空に消し去っているように見えるかもしれない。これは思った以上に楽で効率がいい。あっという間に、依頼で指定された量の何倍もの月見草を採取することができた。


(これだけあれば十分すぎるな。あとは……)


 薬草採取に夢中になっていると、不意にプルが警戒音を発した。

「ぷるるっ!」


 見ると、茂みの奥からギラリと光る目がこちらを覗いている。数匹のフォレストウルフだ。薬草の匂いに釣られてきたのか、あるいは単に縄張りに侵入した俺たちを排除しに来たのか。


「リンド、下がってろ!」


 まだ戦闘に慣れていないリンドを後ろに下がらせ、俺はショートソードを抜く。フォレストウルフは三匹。一対多は不利だが、プルとの連携なら!


「プル、粘着液!」

「ぷる!」


 俺の指示で、プルが先頭の一匹の足元に《粘着液》を放つ。ウルフは足を取られて体勢を崩した。そこへ俺が切り込み、一匹を仕留める!


「グルルゥ!」


 残りの二匹が左右から同時に襲い掛かってくる! まずい、挟まれる!

 そう思った瞬間、後ろに下がらせていたはずのリンドが前に飛び出した!


「キュアアアアッ!!」


 リンドが、これまでとは違う鋭い咆哮を上げる! その声には、竜としての威圧感が込められていた。二匹のフォレストウルフは、本能的な恐怖を感じたのか、一瞬動きを止める。


(ナイスだ、リンド!)


 俺はその隙を見逃さない。素早く一体の懐に潜り込み、心臓を正確に突き刺す。残る一体は、再び体勢を立て直したプルが放った《水弾》の連射を顔面に受け、怯んだところを俺が斬り捨てた。


《経験値を合計120獲得しました。経験値の一部を【収納∞】に貯蓄しますか?》


(よし、貯蓄して、プルとリンドに分配だ!)


《経験値60を貯蓄しました。分配を実行します……対象[スライム(プル)]はレベルアップしました! 対象[幼竜(リンド)]は成長しました!》


 戦闘後、プルは少しだけ体が大きくなり、動きのキレが増したように見える。リンドも、先ほどの威嚇で何か掴んだのか、その瞳に自信の色が濃くなった気がした。


「二人とも、よくやったな」


 俺はプルとリンドを労い、倒したフォレストウルフも【収納∞】に回収した。肉はリンドの食料になるし、毛皮や牙も売ればいくらかの足しになるだろう。


 村役場に戻り、採取した大量の月見草と、ついでに倒したフォレストウルフの討伐証明(牙や爪)を提出すると、村長は目を丸くして驚いていた。


「こ、こんなにたくさん月見草を!? それに、フォレストウルフまで倒したのかね!? 君、本当に昨日来たばかりの……」

「ええ、まあ。従魔たちが優秀なので」


 俺がプルとリンドを示すと、村長は改めて二匹を見て感心したように頷いた。

「なるほど……。いや、大したもんだ。これは約束の報酬と、ウルフ討伐の追加報酬じゃ」


 予想以上の銀貨を受け取り、俺は少しだけ誇らしい気持ちになった。宿屋へ戻る途中、すれ違う村人たちが「あの竜連れ、薬草採取でとんでもない量を採ってきたらしいぞ」「ウルフも倒したんだって?」と噂しているのが聞こえてくる。


(よし、いい感じだ)


 初めての依頼は成功裏に終わった。手にした報酬で当面の生活は安泰だし、プルとリンドも確実に成長している。


「次は、もう少し稼げる依頼を探してみるか」


 肩のプルと、隣を歩くリンドに語りかける。二匹は頼もしく、そして力強く応えてくれた。

 この辺境の村での、俺たちの成り上がりストーリーは、まだ始まったばかりだ。

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