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辺境の村アッシュ

 プルを肩に乗せ、リンドを腕に抱きながら森を抜ける道は、決して楽ではなかった。時折、オークの斥候や大型の狼といった、以前の俺なら単独では遭遇したくなかった魔物にも出くわした。


 だが、今の俺にはプルとリンドがいる。俺が剣で注意を引きつけ、プルが《水弾》や《粘着液》で攪乱する。リンドはまだ戦闘に参加できるほどではないが、それでも敵意を向けてくる相手には「きゅる!」と鋭い鳴き声を上げて威嚇し、一瞬怯ませる程度のことはできた。


 倒した魔物から得た経験値は、着実に【収納∞】に貯蓄し、プルとリンドに分配していく。二匹は目に見えて成長している実感があった。特にリンドは、最初は大型犬ほどだった体躯が、森を抜ける頃には仔馬ほどの大きさになっていた。深紅の鱗は輝きを増し、その瞳にはますます強い知性の光が宿っている。


(この成長速度……やはり普通の竜じゃないな)


 リンドを抱きかかえるのはもう無理で、今は俺の後ろをしっかりとついてきてくれている。プルは相変わらず俺の肩の上が定位置だ。


 森での数日間、食料や水に困らなかったのは、【収納∞】のおかげだった。追放される前に、パーティーの備蓄として大量に収納させられていた食料や水がそのまま残っていたのだ。皮肉なことに、俺を追放したことで、アルヴィンたちはこれらの物資も失ったことになる。


(ま、自業自得だな)


 無限の収納スペースには、その他にも寝袋やテント、焚き火用の道具一式なども入っている。おかげで野営も快適だった。


 そして数日後、俺たちはついに森を抜け、一本の街道に出た。街道を少し進むと、質素だが頑丈そうな木の柵で囲まれた、小さな村が見えてきた。


「あれが……村か」


 煙突から煙が上がり、人の営みがあることを示している。村の入り口には『アッシュ村』と書かれた古びた木の看板が立っていた。辺境の開拓村、といったところだろうか。


 俺たちが村の門に近づくと、見張り台にいた村人らしき男が目を見開いて叫んだ。

「お、おい! なんだあのデカい赤いトカゲは! 魔物か!?」


 やはり、リンドの姿は目立つようだ。俺は慌てて声をかける。

「待ってください! この子は俺の従魔です! 危害は加えません!」


 見張り番は半信半疑といった様子だったが、リンドが特に暴れる様子もなく大人しくしているのを見て、ひとまず武器を下ろしてくれた。しかし、警戒の視線は解いていない。他の村人たちも、遠巻きにこちらを見てひそひそと噂している。


(まずは宿を探して、落ち着かないとな)


 俺は村人たちの視線を感じながら、村で唯一と思われる宿屋『木漏れ日亭』の扉を叩いた。恰幅の良い女将さんが出てきて、リンドの姿に一瞬驚いたものの、追加料金を払うことで、馬小屋の隣にある少し広めの部屋を貸してくれた。従魔連れには慣れているのかもしれない。


 部屋に入り、ようやく一息つく。プルはベッドの上で嬉しそうに跳ねている。リンドは部屋の隅で大人しく丸くなった。


「さて、まずは腹ごしらえと情報収集だな」


 俺は宿屋の食堂で、少し奮発して温かいシチューとパンを注文した。プルには新鮮な果物を、リンドには焼いた肉を与えると、二匹とも夢中で食べ始めた。特にリンドの食欲は旺盛で、あっという間に大皿の肉を平らげてしまった。


(育成には経験値だけじゃなく、食費もかなりかかりそうだ……)


 食事中、俺は宿の主人にこの辺りの情報を尋ねてみた。

 アッシュ村は、王都から遠く離れた辺境の村で、主な産業は林業と、近くの森で採れる薬草や鉱石の採取らしい。冒険者ギルドの支部はないが、村役場が簡単な依頼の仲介をしているとのこと。最近は森の魔物が少し活発になっているという話も聞けた。


「なるほど……まずは村の依頼をこなして、生活費と経験値を稼ぐのが現実的か」


 幸い、【収納∞】があれば薬草採取や素材運搬系の依頼は効率よくこなせるはずだ。魔物討伐も、プルとリンドがいれば、この辺りの魔物なら問題ないだろう。


(問題は、リンドをどうするかだな。従魔として登録した方がいいんだろうけど、ギルド支部がないとなると……)


 それに、リンドがただのトカゲやワイバーンの類ではなく、伝説級の竜だと知られたら、面倒なことになるかもしれない。今はまだ、その力を隠しておくべきだろう。


 俺は食事を終え、懐にわずかに残った銀貨を握りしめた。

「よし、決めた。明日、村役場に行って依頼を探そう。まずは地道に稼いで、俺たちの力を蓄えるんだ」


 肩の上のプルと、足元で満足げにしているリンドを見る。


「このアッシュ村で、俺たちの実力を見せてやろうぜ」


 追放された日から始まった俺の新しい人生。最強の仲間たちと共に、この辺境の地から成り上がっていく。その第一歩を、今、踏み出すのだ。

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