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再潜入

 ドワーダルの夜は、いつもより重く、静かに感じられた。俺とプルは、ボルガン親方の工房から宿へ戻る道すがらも感じていた、あの監視の気配がさらに強まっているのを感じながら、再び街外れの第7倉庫へと向かっていた。今夜、全てを終わらせるために。


 プルが先行し、倉庫周辺の状況を探る。

(見張りの数、増えてる。屋根の上にも二人。裏口にも追加。かなり警戒してるみたい)

 やはり、前回の侵入がバレたことで、警戒レベルが格段に上がっているようだ。だが、侵入経路はまだ生きている。

(換気口は…そのままみたい。でも、そのすぐ近くの通路に、見張りが一人増えてる)


 俺たちは前回と同じく、音もなく倉庫の屋根へ登り、緩んだ換気口から内部へと侵入した。中は前回よりも明らかに慌ただしく、そして張り詰めた空気が漂っていた。見張りの兵士たちの数も増え、その動きには焦りのような色が見える。


(氷刃の到着が近いこと、そして俺という侵入者の存在が、奴らを焦らせているのか……好都合だ)


 俺たちは前回以上に慎重に、物陰から物陰へと移動していく。プルが常に先行し、見張りの位置や視線、巡回のタイミングを的確に知らせてくれる。そのおかげで、俺たちは一度も見つかることなく、倉庫奥の実験室エリアへと近づくことができた。


 実験室エリアは、煌々(こうこう)と魔導ランプが灯され、多くの研究者や諜報員たちが忙しなく動き回っていた。そして、その中央に鎮座する『魔力増幅器』は、前回見た時よりも明らかに活性化していた。黒光りする表面には複雑な紋様が明滅し、低い唸り音と共に周囲の空間を歪ませるほどの強大な魔力を放っている。起動はもう間近なのだろう。


(あれが、エネルギー制御コアか……!)


 ボルガン親方のアドバイス通り、増幅器の中枢部、ひときわ強い魔力と光を放つ部分に、心臓のように脈打つ結晶体が見えた。あれを破壊すれば、この装置を止められるはずだ。しかし、コアの周囲は特に警備が厳重で、数人の屈強な兵士が目を光らせている。


 さらに、コアへと近づく通路には、前回はなかった魔力的なトラップ――床に描かれた微弱な光を放つ魔法陣――が仕掛けられていた。


「ぷるる……(あれ、踏んだら警報が鳴るやつだ……)」

「迂回するか……いや、時間がない」


 俺は【収納∞】から、ボルガン親方に貰った魔力遮断プレートを取り出した。これを足元に敷けば、あるいは魔法陣を無効化できるかもしれない。俺はプレートを慎重に魔法陣の上に置き、その上を静かに通過する。……よし、警報は鳴らない!


 だが、コアまであと数メートルというところで、新たな障害が現れた。増幅器のエネルギーの影響か、あるいは元々仕掛けられていたのか、通路の左右の壁から、小型のガーゴイル像が二体、生命を宿したように動き出し、俺たちの前に立ちはだかったのだ!


「侵入者発見! 排除スル!」

 石造りの体を持つガーゴイルが、無機質な声を発し、鋭い爪を構えて襲いかかってくる!


(戦闘は避けたいが、こいつらを突破しないとコアには近づけない!)


「プル、足止めを! 速攻で決める!」

「ぷるしゅー!」


 プルが即座にガーゴイルの一体に《粘着液》を浴びせ、動きを鈍らせる! 俺はその隙に、もう一体のガーゴイルに『星穿』で斬りかかった! 新しい剣は、石の体をも容易く切り裂く!


 ガキンッ! バキッ!


 一体を素早く破壊! しかし、その戦闘音で近くの見張りがこちらに気づいた!

「侵入者だ! こっちだ!」

「増幅器に近づけるな!」


 複数の兵士が駆けつけてくる! プルが粘着液で足止めしたもう一体のガーゴイルも、拘束を破って襲いかかってくる!


(時間がない!)


 俺は迫りくる兵士たちとガーゴイルを睨み据え、懐からボルガン親方特製の小型爆弾を取り出した。目標は、あと数メートルの距離にある魔力増幅器のコア!


「リンド!(陽動を!)」


 俺は念のため、外で待機しているリンドに念話で合図を送る! すぐに、倉庫の外からリンドの咆哮と、何かが破壊される音が響き渡った! 陽動が始まったのだ!

「外か!? 何事だ!?」

「構うな! こっちの侵入者を仕留めろ!」


 敵の注意が一瞬だけ外に向いた、その隙!

 俺は爆弾の安全装置を外し、コア目掛けて正確に投擲した! 同時に、爆風から身を守るため、近くの資材の影へと飛び込む!


 カチャリ、と爆弾がコア付近に吸着するような微かな音が聞こえた。(親方の細工か!)

 倉庫内にいた諜報員たちが、その小さな異物に気づき、顔色を変える!

「ば、爆弾だ!」

「まずい! 増幅器が!」


 彼らが叫び、慌てて駆け寄ろうとする! 魔力増幅器は、まるで最後の輝きのように、ひときわ強い光と唸りを発し始めた! 起動が、始まってしまう!


 俺は資材の影から、遠隔起爆装置を取り出し、震える指でスイッチに触れる。


「間に合ってくれ……!」


 倉庫を揺るがすほどの魔力奔流が始まろうとする、まさにその瞬間――俺は、起爆スイッチを、強く、押し込んだ!



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