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託された希望

 宿屋に戻った俺は、潜入で得た情報を整理し、敵の恐るべき計画――『魔力増幅器』による地脈エネルギーの転送――を阻止するための作戦を練っていた。残された時間は少ない。『氷刃』とその本隊が到着するのは、早ければ明日の夜。それまでに、何としてもあの魔力増幅器を止めなければならない。


 方法はいくつか考えられた。アジトを急襲して関係者を無力化する、エネルギー転送を妨害する、あるいは増幅器そのものを破壊する。急襲はリスクが高すぎる。妨害は成功する保証がない。最も確実なのは、やはり増幅器の破壊だろう。だが、あの厳重な警戒の中、どうやって?


(……一人では無理だ。誰か、協力してくれる者はいないか?)


 真っ先に思い浮かんだのは、ボルガン親方の顔だった。彼は腕利きの鍛冶師であるだけでなく、古代の技術や魔道具にも造詣が深い可能性がある。それに、あの頑固そうな顔の下には、この街ドワーダルを愛するドワーフとしての誇りと義侠心が隠れている気がした。


 俺は意を決し、翌日の早朝、まだ薄暗いうちにボルガン親方の工房を訪ねた。叩き起こす形になってしまったが、親方は文句も言わずに俺を招き入れてくれた。


「親方、急な話で申し訳ないのですが、力を貸してほしいんです」

 俺は単刀直入に切り出した。そして、昨夜潜入した倉庫のこと、そこに設置されていた危険な魔道具(魔力増幅器)のこと、それが悪用されれば街に甚大な被害が出る可能性があることを、敵の正体など核心部分には触れずに説明した。


「……ほう。街外れの倉庫に、そんな怪しげな物がな」

 親方は腕を組み、難しい顔で俺の話を聞いていた。俺が何かヤバいことに首を突っ込んでいることは、薄々感づいているだろう。

「レント、お前さん、自分がとんでもない連中に目をつけられとる自覚はあるんか? 下手すりゃ、命がいくつあっても足りんぞ」

「覚悟の上です。ですが、あの魔道具を放置しておくわけにはいきません。親方の知識と技術を貸していただけませんか? あの装置を、安全に停止させる方法を……」


 俺は真剣な眼差しで親方を見つめた。親方はしばらく黙って俺の目を見ていたが、やがて大きなため息をつくと、ニヤリと笑った。

「……ふん、仕方ねえ若造じゃな。ワシもこのドワーダルには世話になっとる。街を危機に陥れるような真似を、見過ごすわけにはいかんからのう」


 彼は俺が説明した魔道具の形状や機能から、その構造を推測し始めた。

「魔力増幅器、か。古代の遺物かもしれんな。もしそうなら、暴走させずに止めるのは至難の業じゃ。……だが、どんな機械にも急所はある。おそらく、エネルギーの流れを制御する『コア』があるはずじゃ。そこをピンポイントで破壊できれば……あるいは」


 親方は工房の奥から、いくつかの道具や素材を取り出してきた。

「時間がないんじゃろ? これを使え。ワシが昔、鉱山の硬い岩盤を破砕するために作った試作品じゃがな。指向性を持たせた小型の魔力爆弾じゃ。こいつを例のコアとやらに直接仕掛けられれば、周囲への被害を最小限に抑えつつ、機能停止させられるかもしれん」


 彼は手際よく、いくつかの小型爆弾と、それを遠隔で作動させるための小さな起爆装置を俺に手渡してくれた。さらに、魔道具のエネルギー干渉を一時的に遮断できるかもしれない、特殊な合金で作ったプレートもいくつか渡してくれた。

「ただし、使い方を間違えれば、お前さん自身が吹き飛ぶことになる。くれぐれも慎重にやれよ」

「……ありがとうございます、親方! この恩は必ず!」

「礼なんぞいらんわい。さっさと行って、街の危機を救ってこんか、英雄様よ!」


 親方の力強い言葉に背中を押され、俺は工房を後にした。彼の協力は、絶望的な状況における一筋の光明だった。


 ギルドには、匿名で「街外れの第7倉庫で、違法な魔道具実験が行われている模様。大規模な魔力反応あり」という警告文を投書しておいた。ギルドがどこまで動くかは分からないが、多少なりとも奴らの注意を引きつけ、行動を制限できれば儲けものだ。


 宿屋に戻り、俺はプルとリンドに最終的な作戦を伝えた。今夜、再びあの倉庫へ潜入し、ボルガン親方の爆弾を使って魔力増幅器のコアを破壊する。プルは潜入と索敵、そしてコアの位置特定。リンドは外で待機し、万が一の際の陽動と脱出の援護。


「……氷刃が来る前に、全てを終わらせる。これが最後のチャンスだ」


 俺は完成したばかりの剣『星穿』を握りしめる。ボルガン親方から託された小型爆弾を、【収納∞】に慎重に格納する。


「街の運命も、俺たちの運命も、今夜決まる……!」


 日が完全に沈み、ドワーダルが再び夜の闇に包まれる。俺はプルと共に、静かに宿屋を抜け出した。決戦の地、第7倉庫へ。今度こそ、奴らの計画に終止符を打つために。俺たちの反撃が、今、始まる。

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