運び屋を追え、闇のアジトへ
本日から
「 クラスから追放された最弱の俺。最強スキル【コピペ】で成り上がる。」
連載を開始したので、こちらの作品も併せて、ぜひよろしくお願いします。
宿屋に戻った俺は、三日月亭での潜入で得た情報を整理していた。王国の諜報機関がドワーダル市内で暗躍し、特殊な魔道具を受け渡そうとしていたこと。そして、奴らが俺の存在と『星霜の結晶』の件を把握していること。状況は思った以上に厄介だった。
(あの魔道具……一体何なんだ? 武器か、何かの装置か? いずれにせよ、奴らが隠密に運ぼうとしている以上、ろくな物ではないだろう)
放置しておけば、この街、あるいはそれ以上の規模で何か良からぬことが起こるかもしれない。俺は、あの魔道具の行方を追跡し、可能ならその目的を探り、場合によっては奪取することを決意した。
だが、俺の潜入によって、三日月亭での受け渡しは中止、あるいは延期された可能性が高い。運び屋が誰で、次にどこへ現れるのか? 手がかりは少ない。
俺は再び情報収集に動いた。ボルガン親方に、それとなくあの魔道具の形状(複雑な機構を持つ、黒光りする武具のようなもの)について尋ねてみたが、「そんなもんは聞いたことがねぇな。古代の遺物か、あるいは禁忌の代物かもしれん。関わらん方が身のためじゃぞ」と、逆に心配されてしまった。
ギルドでも、「変わった魔道具」に関する噂を探ってみたが、有力な情報は得られない。敵は巧妙に事を進めているようだ。
(となると……やはり、三日月亭周辺を張り込むしかないか)
受け渡し場所を変更する可能性もあるが、一度設定した場所をそう簡単には変えないかもしれない。俺は、運び屋が再び現れるのを待つことにした。
翌日から、俺は三日月亭周辺の監視を開始した。プルに協力を頼み、交代で、あるいは連携して、周辺の建物の屋根の上などから、酒場へ出入りする人物を注意深く観察する。リンドには引き続き厩舎で待機してもらい、いざという時に備えてもらった。
そして、監視を始めて二日目の夕暮れ時。動きがあった。
「ぷるっ!(あれ……あの人、昨日も見かけた……荷物が怪しいかも!)」
プルの念話が飛んでくる。プルが指し示したのは、大きな麻袋を担ぎ、フードを目深に被った、一見するとただの行商人風の男だった。だが、その動きには妙な警戒心があり、時折鋭い視線で周囲を窺っている。そして、担いでいる麻袋は、大きさの割に妙に重そうだ。
(……間違いない。あれが運び屋、そしてあの麻袋の中に『荷物』が!)
男は三日月亭には入らず、近くの裏路地で別の黒服の男と短い言葉を交わした後、すぐにその場を立ち去り、街の外れへと向かい始めた。受け渡し場所を変更したのか、あるいはこれから別の場所へ運ぶのか。
「追うぞ、プル!」
「ぷる!」
俺たちは密かに男の追跡を開始した。男はかなり用心深く、何度も立ち止まっては周囲を確認したり、わざと入り組んだ道を選んだりして、追跡を撒こうとしている。だが、プルの索敵能力と、俺自身の隠密行動のスキルがあれば、見失うことはない。
追跡劇は、ドワーダルの薄暗い路地裏から、活気のある市場の喧騒を抜け、やがて街の外壁近く、ほとんど使われていないような寂れた倉庫街へと続いた。
男は周囲を最後にもう一度確認すると、その倉庫街の中でも特に古びて大きな倉庫の一つへと、音もなく滑り込んだ。
(ここか……!)
俺は倉庫から少し離れた場所の影に身を潜め、内部の様子を窺う。倉庫の窓は固く閉ざされ、入り口には見張りが二人立っている。さらに、倉庫の屋根や周辺の建物にも、複数の監視の気配を感じる。厳重な警戒態勢だ。
そして、倉庫の内部から、微かに、だが確かに、あの三日月亭で見た魔道具と同じ、不気味な魔力の波動を感じ取れた。
「ここが奴らのアジトか、それとも中継地点か……。あの魔道具を、ここでどうするつもりだ?」
運び屋を追い、ついに敵の拠点らしき場所にたどり着いた。だが、警戒は厳重で、内部にどれだけの敵がいるかも分からない。正面から突入するのは無謀だろう。
(……まずは、内部の情報をもう少し集める必要があるな)
俺は、この倉庫への潜入、あるいは強行突入を覚悟しつつ、まずは夜が更けるのを待ち、内部の状況を探るための計画を練り始めた。プルも俺の隣で、小さな体を震わせ、これからの戦いに備えているようだった。
掴んだ尻尾は、思いのほか大きな獣に繋がっているのかもしれない。だが、もう引き返すつもりはなかった。




