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新たなる旅立ち

 ピシ、ピシッ、パリンッ!

 祭壇の上で、巨大な深紅の卵に走るヒビは瞬く間に全体へと広がり、ついに甲高い音を立てて砕け散った!

 眩い光が迸り、俺は思わず腕で目を覆う。プルも俺の足元で小さく丸くなっている。


 やがて、光が収まった時、俺は恐る恐る目を開けた。

 祭壇の上、砕けた卵の殻の中心に、それはいた。


「……竜、だ」


 生まれたばかりだというのに、その姿は神々しさすら漂わせていた。大きさは大型犬ほどだろうか。全身を覆う鱗は、卵と同じ深紅色で、朝日に照らされた宝石のようにキラキラと輝いている。頭部には小さな角が二本生え、背中にはまだ小さいが、それでも力強い翼が折り畳まれていた。

 そして、その瞳。知性を感じさせる大きな黒曜石のような瞳が、最初に俺を捉えた。


「……きゅ?」


 小さな、それでいて凛とした鳴き声を上げ、竜の幼体はゆっくりと俺の方へ首を傾げる。生まれたばかりの雛鳥が親を見るような、そんな純粋な眼差しだった。


「ぷる!」

 俺の足元からプルが飛び出し、興味津々といった様子で祭壇に駆け上がり、竜の幼体に近づいていく。竜のほうも、プルを威嚇する様子はない。むしろ、不思議そうに首を伸ばし、プルのもふもふとした体を鼻先でつん、と突いた。


「ぷるる♪」

「きゅる?」


 言葉は通じないはずなのに、二匹の間には何か通じ合うものがあるように見える。もふもふスライムと伝説の竜の幼体。なんとも奇妙で、微笑ましい光景だ。


 俺はゆっくりと祭壇に近づいた。竜の幼体は俺から目を離さない。警戒しているというよりは、興味を持っているようだ。


「お前が……伝説の竜、なのか?」


 問いかけても、もちろん返事はない。だが、その存在感は、そこらの魔物とは比較にならない。

 名前をつけなければ。この強く、美しい竜にふさわしい名前を。


(深紅の鱗、威厳のある姿……そうだ、リンド。古の言葉で『竜の王』を意味する名前……)


「お前の名前は、リンドだ。どうかな?」


 俺がそう告げると、竜――リンドは、「きゅる!」と一声鳴き、俺の手にそっと鼻先を擦り付けてきた。どうやら、この名前を気に入ってくれたらしい。


(さて、問題はこのリンドをどうするか、だ)


 生まれたばかりで、まだ弱々しいとはいえ、伝説の竜だ。このまま森に放置するわけにはいかない。俺が保護し、育てるべきだろう。プルと同じように。


(……もしかして、リンドにも『経験値貯蓄』は使えるのか?)


 試してみる価値はある。俺は先ほどフォレストボアを倒して得た経験値――貯蓄したポイントのうち、100ポイントをリンドに分配するイメージを描いた。


《貯蓄経験値100を対象[幼竜(リンド)]に分配しますか?》

(はい!)

《経験値100を分配しました。対象[幼竜(リンド)]はわずかに成長しました!》


 分配した瞬間、リンドの体が淡い光を放ち、先ほどよりも少しだけ元気を取り戻したように見えた。そして、俺に対する親愛の情を示すかのように、再び手にすり寄ってくる。


「よし……! リンドも育成できる!」


 プルとリンド。もふもふスライムと伝説の竜。俺には二体の強力な仲間がいる。そして、彼らを育成するためのチートスキル【収納∞】がある。追放された時は絶望しかなかったが、今は未来への希望が湧いてきていた。


(あいつら……俺をゴミスキルだと追放したアルヴィンたちを見返してやる!)


 もちろん、復讐だけが目的ではない。だが、理不尽な仕打ちを受けた悔しさは、俺の新たな原動力となっていた。


「プル、リンド。俺たちで最強のパーティーになろう!」

「ぷる!」

「きゅる!」


 二匹は元気よく応えてくれた。


 そのためには、まず安全な拠点が必要だ。そして、プルとリンドをさらに成長させるための、大量の経験値も。


「よし、決めた。まずはこの森を出て、近くの街か村を目指そう。そこで情報を集めて、俺たちの活動拠点を探すんだ」


 俺は決意を新たに、プルを肩に乗せ、リンドを腕に抱きかかえる。リンドはまだ小さいとはいえ、ずっしりとした重みがあった。生命の重みだ。


「行こう、プル、リンド! 俺たちの新しい冒険の始まりだ!」


 朝日が差し込む森の中を、俺たちは歩き出した。

 追放された荷物持ちと、もふもふスライム、そして生まれたばかりの伝説の竜。奇妙な組み合わせのパーティーが、これからどんな伝説を紡いでいくのか。今はまだ、誰も知らない。

 ただ、確かな希望と、無限の可能性を胸に、俺たちの旅は始まったばかりだった。

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