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英雄の休息と忍び寄る影

 第伍鉱山の異変を解決(結果的に)してから、数日が穏やかに過ぎていった。俺の名は「竜使いのレント」としてドワーダル中に知れ渡り、街を歩けば子供たちからは英雄を見るようなキラキラした目で見られ、大人たちからは感謝や称賛の言葉をかけられることも多くなった。冒険者ギルドに行けば、依頼の相談やパーティーへの勧誘が後を絶たない。正直、少し騒がれすぎている気もするが、悪い気はしなかった。


 俺はしばらくの間、まとまった休息を取ることに決めた。腐蝕の沼での騎士団との激闘、そして鉱山での死闘。プルもリンドも、そして俺自身も、心身ともに深く消耗していたからだ。ギルドからの依頼は全て断り、宿屋でのんびりと過ごすことにした。


 リンドは今回の経験でまた一回り大きく成長し、その深紅の鱗は以前にも増して艶やかに輝いている。飛行能力も格段に向上し、厩舎の天井近くまで軽々と飛び上がれるようになっていた。プルも回復魔法の精度が上がり、俺の僅かな疲労すら敏感に感じ取って《ヒール》をかけてくれる。二匹とも、本当に頼もしい相棒だ。


 稼いだ報酬で、俺たちは少し贅沢をした。宿の食事はいつもより上等なものを頼み、プルには様々な種類の甘い果物を、リンドには最高級の干し肉を山のように買ってやった。時間停止空間のおかげで、いつでも新鮮な状態で食べさせてやれるのが嬉しい。そんな穏やかな時間は、追われる身であることを一瞬忘れさせてくれる、貴重なものだった。


 休息期間中、俺はボルガン親方の工房にも何度か足を運んだ。依頼していた俺の新しい剣と、リンド用の装備の進捗を確認するためだ。

「おお、英雄様のお帰りか! ガハハ!」

 ボルガン親方は、俺の顔を見るなり豪快に笑う。彼も俺の活躍を知り、その腕を高く評価してくれているようだった。


「剣の方は、もうすぐ完成じゃぞ。試してみるか?」

 親方が差し出したのは、まだ柄も完全ではないが、刀身が完成したばかりの剣だった。俺が持ち込んだ『星屑鉄』とオークチーフの牙、さらに親方が秘蔵していたという特殊な金属を打ち合わせたそれは、手に取っただけで分かるほどの尋常ではない切れ味と、俺の魔力に吸い付くような親和性を感じさせた。


「……すごい。軽いのに、力がみなぎってくるようです」

「だろう? あんたの妙なスキルとの相性も考えて打ち合わせた、ワシの自信作じゃ。完成を楽しみにしておれ」


 リンド用の装備も、試作が進んでいた。リンドの成長速度は凄まじいため、サイズ調整が可能な特殊合金製の爪と脚部のプロテクターだ。実際にリンドを工房に連れてきて(もちろん人目を忍んで)、サイズ合わせを行った。リンドも、自分のための装備に興味津々といった様子だった。


 親方との打ち合わせの合間、彼はポツリと気になることを漏らした。

「そういやレント、最近、街の周りで見慣れない連中がうろついとるという噂は聞いとるか? 妙に統率が取れてて、物々しい雰囲気だとか……。傭兵か、あるいは……」

 あるいは、騎士団の残党か、新たな追手か。俺は内心で警戒を強めた。


 その疑念は、日を追うごとに強まっていった。ギルドの酒場で情報収集をしていると、「王都から騎士団の偉いさんが視察に来ているらしい」「隣国との国境警備が強化された」といった断片的な情報が耳に入る。逃げた『氷刃』が王国に報告し、アルヴィンが動き出した結果、新たな手が打たれようとしているのは間違いなさそうだ。


 そして何より、ここ数日、街中で妙な視線を感じることが増えた。特定の人物というわけではない。だが、人混みの中で、あるいは建物の影から、明らかに俺を監視しているような気配を感じるのだ。プルも、「なんだか、ジロジロ見られてる感じがする……」と不安そうに呟く。


(……やはり、ドワーダルにも奴らの息がかかった者がいるのか)


 この街も、もはや完全に安全な場所ではなくなったのかもしれない。休息期間は終わりだ。ボルガン親方の武具が完成したら、すぐに行動を開始する必要がある。


 数日後、ボルガン親方から武具が完成したとの連絡が入った。俺は完成したばかりの新しい剣――銘を『星穿ほしうがち』と名付けた――を手に取り、その確かな手応えと溢れる力に満足感を覚える。リンドも、特注のプロテクターを装着し、どこか誇らしげに見えた。


 準備は整った。

 俺は宿屋の窓から、活気あふれるドワーダルの街並みを見下ろした。


「……嵐の前の静けさ、か。だが、今度はただ待っているだけじゃない」


 追ってくるなら、受けて立つ。いや、こちらから仕掛けてやる。俺は静かに闘志を燃やした。プルとリンドも、俺の決意を感じ取ったのか、静かに、だが力強く、その身を俺に寄り添わせた。

 次なる戦いの幕開けは、もう間近に迫っていた。

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