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崩壊からの生還、英雄の凱旋

 背後で巨大クリスタルが断末魔のような咆哮を上げ、地下空洞全体が激しく揺さぶられる! 天井からは巨大な岩盤が次々と剥がれ落ち、足元の地面には亀裂が走る!


「急げ、リンド! 全速力で!」


 俺はリンドの背中にしがみつき、叫んだ。リンドも危機を察知し、残された最後の力を振り絞って、崩壊し始めた坑道を猛スピードで駆け抜けていく。プルは俺の外套にしがみつき、時折、後方から迫る衝撃波や飛来する岩石に対して、咄嗟に水の盾のようなものを展開して防いでくれた。


 来た道を戻るだけだが、状況は一変していた。落盤で道が塞がれかけ、壁からは有毒ガスが噴き出し、床が突然陥没する。まさに地獄絵図だ。その度に、リンドがブレスで障害物を破壊し、プルが危険を察知し、俺が瞬時にルートを判断する。一瞬の油断も許されない、ギリギリの脱出劇だった。


(【収納∞】に入れた隊員たちは大丈夫か……? 時間停止してるから影響はないはずだが……)


 自分のこと以上に、救出した隊員たちの安否が気になる。絶対に、彼らを無事に地上へ連れ戻さなければ。


 第二階層、第一階層と、必死に駆け抜ける。地上は近い! だが、その時、前方の通路が轟音と共に完全に崩落し、巨大な岩で塞がれてしまった!


「くそっ! 行き止まりか!」


 背後からは、鉱山全体の崩壊を示す地響きと衝撃波が迫ってくる! まさに絶体絶命だ!


「リンド、ブレスを! あの岩盤を吹き飛ばすぞ!」

「キュオオオッ!」


 リンドが渾身の炎ブレスを放つ! 岩盤は赤熱し、表面が溶解し始めるが、完全に破壊するには至らない!


「まだだ! 俺もやる!」


 俺は【収納∞】から、とっておきの爆発性鉱石を数個取り出し、ブレスで弱くなった岩盤の亀裂目掛けて投げつけた!

「これでどうだ!」


 ドゴォォォン!!


 ブレスの熱と爆発の衝撃! さすがの岩盤も耐えきれず、轟音と共に砕け散った! 粉塵の向こうに、微かに外の光が見える!


「行ける! 行け、リンド!」


 リンドは最後の力を振り絞り、粉塵を突き抜けて、ついに鉱山の外へと飛び出した! 俺たちが外に出た直後、背後で第伍鉱山の入り口全体が、凄まじい音を立てて完全に崩落した。もうもうと土煙が上がり、内部からは地底の唸りのような音が響いてくる。まさに、危機一髪だった。


「はぁ……はぁ……助かっ、た……」


 俺はリンドの背中から崩れるように降り、地面に手をついた。プルもリンドも、完全に力を使い果たした様子で、荒い息をついている。

 俺はすぐに【収納∞】から、時間停止させていた調査隊員たちを解放した。幸い、全員無事だった。まだ意識は戻らないが、呼吸は安定している。


「……お、おい! 生存者だ!」

「あの冒険者だ! 依頼を受けて中に入った!」

「それに、行方不明だった隊員たちもいるぞ!」


 鉱山の入り口で待機していたのだろう、鉱山組合の見張りや、異変に気づいて駆け付けたギルド関係者たちが、俺たちの姿を見て駆け寄ってきた。彼らは、ボロボロの俺たちと、横たわる隊員たち、そして完全に崩落した鉱山の入り口を見て、何が起こったのかを察し、驚愕と安堵の声を上げた。


 俺は、救出した隊員たちを彼らに引き渡した。すぐに街の医療施設へ運ばれていくだろう。

 その後、俺はギルドマスターと鉱山組合の幹部に、内部で起こった出来事を報告した。巨大な魔力クリスタルが存在し、それが暴走したこと。クリスタルを守る強力なゴーレムがいたこと。そして、最終的に鉱山が内部から崩壊したこと。

 『星霜の結晶』の名前は伏せ、あくまで異常な魔力クリスタルによる天災(あるいはそれに近い何か)として説明した。今の段階で、あの結晶石のことを公にするのは危険すぎると判断したからだ。


 俺の報告を聞いたギルドマスターたちは絶句していたが、行方不明者を救出し、結果的に(鉱山一つを犠牲にしたとはいえ)異変を収束させた俺の功績を認めざるを得なかった。


 数日後、ドワーダルの街は、英雄の凱旋に沸いた。危険な鉱山から仲間を救い出した「竜使いの新人」レント。その名は一気に広まり、俺は B ランク冒険者へと特昇格した。ギルドからは破格の報酬が支払われ、街の人々からは称賛と感謝の声が寄せられた。


 しかし、その喧騒の中にあって、俺の心は晴れなかった。

 あのクリスタルは一体何だったのか? なぜ暴走したのか? 騎士団やアルヴィンは、あれをどうするつもりだったのか? 鉱山の崩落で、本当に全てが終わったのだろうか?

 多くの謎が残されたままだった。


 宿屋の部屋で、手に入れた高額な報酬の袋をテーブルに置き、俺は窓の外に広がるドワーダルの夜景を見つめた。活気に満ちたこの街にも、見えない脅威が潜んでいるのかもしれない。


(ボルガン親方の武具が完成するまで、ここで休息と情報収集だ。そして、奴らが再び現れる前に、さらに力をつけなければ……)


「これで終わりじゃない。むしろ、始まったばかりなのかもしれないな……」


 俺は静かに呟いた。隣では、プルとリンドが安らかな寝息を立てている。このかけがえのない仲間たちを守るためにも、俺は立ち止まるわけにはいかないのだ。

 鉱山都市での新たな章は、まだ始まったばかりだった。

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