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巨大な卵

 プルに導かれるまま、俺たちは鬱蒼とした森の奥深くへと足を踏み入れていた。周囲の空気は密度を増し、時折、これまで遭遇したものより明らかに格上の魔物の気配が感じられる。


「ぷる……」


 プルも緊張しているのか、俺の肩の上で小さくなっている。それでも、進むべき方向を迷う様子はない。


(この先に、一体何があるんだ……?)


 警戒しながら進む俺の思考を、不意にプルが遮った。


「ぷるっ!」


 プルが前方を指し示す(ように体を伸ばす)。見ると、木々の切れ間から、柔らかな光が漏れていた。どうやら開けた場所に出るようだ。


 俺たちは茂みを抜け、その場所に足を踏み入れた。

 そこは、まるで忘れられた聖域のような空間だった。苔むした石畳が円形に広がり、その中心には古びた石造りの祭壇のようなものが鎮座している。周囲には奇妙な文様が刻まれた石柱がいくつか倒れていた。長い間、誰にも顧みられなかった場所なのだろう。


 そして、その祭壇の上に――それはあった。


「……卵?」


 思わず声が漏れた。祭壇の上には、俺の背丈ほどもある巨大な卵が安置されていたのだ。表面は硬質な鱗のような質感で、色は深紅。全体が淡い光を放ち、周囲に満ちる魔力、いや、強大な生命力の源となっていることは明らかだった。


「ぷるぅ……」

 プルが心配そうな声を上げ、卵に駆け寄ろうとする。その瞬間。


 ――グルルルルァァァ!!


 獣の咆哮が森に響き渡った! 見ると、茂みの中から一体の魔物が姿を現す。猪のような体に、鋭い牙と爪を持つ四足獣。体長は3メートルを超えているだろうか。おそらく、この辺りの森の主クラスの魔物――フォレストボアだ。その濁った瞳は、明らかに祭壇の上の卵に向けられている。


(まずい、卵が狙われているのか!)


 フォレストボアは、俺とプルを威嚇するように唸り声を上げると、祭壇目掛けて突進を開始した!


「プル、危ない!」


 俺は咄嗟にプルを抱きかかえ、横に跳んで回避する。直後、俺たちがいた場所にフォレストボアの巨体が突っ込み、石畳を砕いた。


「グルァ!」


 獲物を逃したフォレストボアが、苛立ったようにこちらを睨む。


(やるしかない……!)


 この卵が何なのかは分からない。だが、プルがこれほど気にかけ、そしてこの強大な魔物が狙うからには、ただの卵ではないはずだ。もしかしたら、これが……。


(――伝説の竜、なのか?)


 確信はない。だが、守る価値があるものだと、俺の直感が告げていた。


「プル、手伝ってくれるか?」

「ぷるっ!」


 プルは力強く頷くと、俺の肩から飛び降り、臨戦態勢をとる。レベルアップしたプルは、以前の弱々しいスライムとは違う。


(貯蓄経験値を使うか……いや、今はプルを信じよう)


 俺はショートソードを構え、フォレストボアと対峙する。レベル差は大きいだろう。だが、俺たちには連携がある。


「行くぞ、プル!」

「ぷる!」


 俺がフォレストボアの注意を引きつけるように駆け出す。フォレストボアは俺を目掛けて再び突進してきた!


(デカい図体に、直線的な動き……!)


 動きを見切り、寸前で身を翻す。その隙を突き、プルが動いた!


「ぷしゅー!」


 プルが放った《水弾》が、フォレストボアの顔面にヒットする! 威力は低いが、不意を打たれたフォレストボアは怯み、動きが止まった。


「今だ!」


 俺はその隙を見逃さず、フォレストボアの側面から脚を目掛けて斬りつける! だが、硬い毛皮に阻まれ、浅い傷しか与えられない。


「グルルッ!」


 怒ったフォレストボアが、薙ぎ払うように前脚を振るう。危うく直撃を食らうところだったが、なんとか後方へ飛び退いて回避する。


(硬い……! このままじゃジリ貧だ)


 どうするべきか考えあぐねていると、プルが再び動いた。今度は《水弾》ではない。プルは体を僅かに膨らませると、口から粘り気のある青い液体を吐き出した。それはフォレストボアの足元に広がり、動きを鈍らせる。


(あれは……《粘着液(スティッキーリキッド)》!? いつ覚えたんだ!)


 プルの思わぬ援護に驚きつつも、好機と判断する。動きの鈍ったフォレストボアの死角に回り込み、がら空きになった首元へ、渾身の力を込めて剣を突き立てた!


「グギャアアアアッ!!」


 断末魔の叫びを上げ、フォレストボアはその巨体を地面に横たえ、やがて光の粒子となって消滅した。


《経験値を300獲得しました。経験値の一部を【収納∞】に貯蓄しますか?》


「はぁ……はぁ……。やった、のか……?」


 息を切らしながら、俺はその場に膝をつく。プルが心配そうに駆け寄ってきた。


「ぷる……」

「大丈夫だ、プル。お前のおかげだよ。ありがとう」


 俺がプルの頭(?)を撫でると、プルは気持ちよさそうに目を細めた。


 安堵したのも束の間だった。


 ――ピシッ。


 乾いた音が響いた。音の発生源は……祭壇の上の、巨大な卵だ。

 見ると、卵の表面に入っていたわずかなヒビが、ゆっくりと広がっていく。そして、ヒビの隙間から、眩いばかりの光が漏れ始めた!


「なっ……!?」

「ぷるる!?」


 卵全体の光が急速に強まっていく。まるで、内側から何かが生まれようとしているかのように。

 俺とプルは、息を飲んでその光景を見守るしかなかった。


 ――伝説が、今、目覚めようとしていた。

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