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指名依頼と不穏なる鉱山

 俺は、自分宛てに張り出された指名依頼書を手に、ドワーダルの冒険者ギルドの受付カウンターに立っていた。『第伍鉱山区域にて行方不明となった調査隊員の捜索および救助』。危険度が高く、鉱山の異変に直接関わる可能性の高い依頼だ。


「……この依頼、受けさせていただきます」

「レントさん、本当によろしいのですか? 第伍鉱山は現在、最も危険な区域の一つとされています。調査に入ったギルドのベテランチームですら、行方が分からなくなっているんですよ?」


 受付嬢が心配そうな顔で確認してくる。隣のカウンターでは、「紅蓮の牙」のリーダー、ガルバスが腕を組んでこちらを見ていた。彼の表情は険しく、この依頼の危険性を物語っているようだった。


「覚悟の上です。何か情報は?」

「行方不明になったのは、鉱山組合所属の地質調査員3名と、護衛のCランク冒険者2名の計5名です。彼らが最後に連絡を入れてきたのは三日前、鉱山の第三階層付近からでした。これが内部の簡易地図と、彼らの装備リストです」


 俺は渡された資料に目を通す。第三階層……かなり深い場所だ。通常の鉱山作業は第一、第二階層までで、それより奥は未調査区域も多いという。


「分かりました。準備を整え次第、出発します」

「ご武運を……!」


 俺は受付嬢と、そして一瞬だけ目が合ったガルバスに軽く頷き返し、ギルドを後にした。


 宿に戻り、プルとリンドに依頼内容を説明する。二匹は危険な任務であることを理解しつつも、不安よりは俺への信頼と、新たな挑戦への意欲を示してくれた。

「ぷる!(任せて!)」

「キュルル!(主と共ならば!)」


 俺たちは入念に準備を進めた。ボルガン親方に依頼した新しい装備はまだ完成していないため、既存の剣や鎧を手入れし、状態を確認する。ポーションは回復用だけでなく、解毒用も多めに【収納∞】に補充。食料、水、松明、ロープといった基本的な装備はもちろん、いざという時のための爆発性鉱石や煙幕玉も忘れずに確認した。


 作戦としては、まずプルに先行させて索敵と痕跡の発見を優先し、危険があればリンドの力で突破、俺が全体を指揮しつつ、スキルでサポートする。救助が最優先だが、異変の原因究明も視野に入れる。


 翌朝早く、俺たちは第伍鉱山へと向かった。街から離れた山中に位置するその鉱山は、遠目にも他の鉱山とは違う、重苦しく不穏な空気を漂わせていた。入り口は固く閉ざされ、鉱山組合の見張りが厳しい顔で立っている。鉱石を運び出すトロッコも動いておらず、人の気配がほとんどない。放棄された廃坑のようだ。


 俺がギルドカードと依頼書を提示すると、見張りは驚いたような顔をしたが、すぐに険しい表情に戻った。

「……ギルドからの冒険者か。若いな。忠告しておくが、中は何が起こるか分からんぞ。数日前に入った連中も戻ってこない。命が惜しければ、引き返すなら今のうちだ」

「覚悟の上です」

「……そうか。なら、これを持って行け。緊急用の信号弾だ。万が一の時は、外に知らせろ。……まあ、助けが来るとは限らんがな」


 見張りから受け取った信号弾をしまい、俺たちは固く閉ざされた鉱山の入り口――頑丈な鉄の扉――の前に立った。見張りが重々しくかんぬきを外すと、ギィィ…と軋む音を立てて扉が開く。その先には、ただ、暗く冷たい闇が広がっていた。


「行くぞ」


 松明に火を灯し、俺たちは鉱山内部へと足を踏み入れた。ひんやりとした湿った空気が纏わりつき、鼻をつくかび臭さと、微かな硫黄のような匂いが混じり合う。岩を穿つ音は一切聞こえず、代わりに、自分たちの足音と、どこか遠くから響いてくるような、滴り落ちる水の音、そして……時折混じる、魔物の呻き声のようなものが不気味に反響していた。


 第一階層は比較的広く、トロッコのレールなどが残っているが、すでに魔物の巣窟と化しているようだった。壁の影から飛び出してくる巨大な坑道ネズミ「マインラット」や、天井から糸を垂らしてくる「ケイブスパイダー」が次々と襲いかかってくる。


「プル、右! リンド、上!」


 俺の指示に、二匹は即座に反応する。プルの《ウォーターカッター》がマインラットの群れを薙ぎ払い、リンドの短いブレスがケイブスパイダーを焼き払う。これらの魔物は、以前アッシュ村周辺で戦った同種の魔物より、明らかに凶暴で、動きも素早い。鉱山の異変は、浅い階層から既に始まっているようだ。


 戦闘をこなしつつ、俺たちは行方不明になった調査隊員の痕跡を探した。そして、第二階層へと下る通路の入り口付近で、それらしきものを見つけた。


(これは……争った跡か?)


 壁には新しい傷跡があり、地面には乾ききっていない血痕が点々と残されている。そして、壊れたランタンの破片と、調査隊員が持っていたと思われる装備の一部――革の手袋が片方だけ落ちていた。


「ぷる……(こっち……)」

 プルが、血痕が続く先の、鉱山深部へと続く暗い通路を指し示した。


(隊員たちは、ここで何かに襲われ、さらに奥へと連れ去られたか、あるいは逃げ込んだのか……)


 どちらにせよ、彼らがこの先にいる可能性は高い。そして、この鉱山の異変の中心も、おそらくはこの奥にあるのだろう。


「この先に隊員たちが……そして、この異変の原因があるのかもしれないな」


 俺は松明の炎を揺らしながら、暗闇の奥を見据えた。通路の奥からは、これまで感じたことのない、冷たく、そして強力な魔物の気配が漂ってくるのを感じていた。

 危険は承知の上だ。俺は覚悟を決め、プルとリンドと共に、鉱山のさらに深い闇へと足を踏み入れた。

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