南への旅路
アッシュ村を後にしてから、俺たちはひたすら南を目指して旅を続けていた。鬱蒼とした森を抜け、視界が開けた草原地帯に出ると、風景は一変した。どこまでも続くかのような緑の絨毯、点在する奇妙な形の岩山、そして遠くに見える雄大な山脈。アッシュ村周辺とは全く異なる景色に、俺だけでなく、プルやリンドもどこか興奮しているようだった。
旅は、【収納∞】のおかげで驚くほど快適だった。時間停止空間に保存された食料はいつでも新鮮で、十分な量の水も持ち運べる。夜は性能の良いテントと寝袋で快適な睡眠をとることができた。リンドもさらに成長し、今では俺一人を乗せて、短時間なら低空を飛行できるまでになっていた。これにより、移動速度は格段に上がり、危険な場所を迂回するのも容易になった。
「ぷるぷるー!(風が気持ちいー!)」
俺の肩の上で、プルが風を受けて嬉しそうに鳴いている。リンドの背に乗って空を駆けるのは、想像以上に爽快だった。追われる身ではあるが、この広大な世界を旅すること自体には、確かな高揚感があった。
もちろん、道中は平穏なばかりではない。新しい土地には、新しい魔物が生息している。草原では、サーベルタイガーのような鋭い牙を持つ大型の猫科魔獣「プレーリーファング」の群れに襲われた。岩場では、鋭い爪で襲い掛かってくる怪鳥「ロックヴァイパー」に遭遇した。
しかし、これらの新しい敵も、今の俺たちの敵ではなかった。俺の的確な指示、プルの多彩なサポート魔法、そしてリンドの圧倒的な戦闘能力。三位一体の連携は、腐蝕の沼での死闘を経て、さらに洗練されていた。プレーリーファングの素早い動きはプルの《粘着液》で封じ、ロックヴァイパーの飛行能力はリンドのブレスで叩き落とす。戦闘を重ねるごとに経験値は貯まり、俺たちは着実にレベルアップしていった。倒した魔物の素材――プレーリーファングの牙や毛皮、ロックヴァイパーの風切り羽根などは、貴重な換金アイテムとして【収納∞】に収められた。
旅を始めて十日ほど経った頃だろうか。街道を進んでいると、一台の大きな幌馬車とすれ違った。護衛らしき屈強な男たちを連れた、恰幅の良い商人だ。彼はリンドの姿を見て一瞬驚いたものの、敵意がないと分かると、人懐っこい笑顔で話しかけてきた。
「おやおや、珍しい竜を連れた旅人さんだねぇ。どちらまで?」
「南にあるという、鉱山都市ドワーダルを目指しているんですが」
「ほう、ドワーダルへ! わしもつい先日まで、あそこで商売をしてきたところだよ」
これは良い機会だと、俺は彼からドワーダルの情報を詳しく聞かせてもらった。
ドワーダルは、その名の通り、巨大な鉱山を中心に栄える都市で、様々な人種――人間、ドワーフ、獣人などが集まる、活気に満ちた場所らしい。冒険者ギルドの規模も大きく、高ランクの依頼も豊富だが、その分、腕利きの冒険者がひしめき、競争も激しいという。
そして、気になる噂も教えてくれた。最近、ドワーダル周辺の鉱山で落盤事故が頻発したり、これまで見られなかったような強力な魔物が出現したりしているらしい。ギルドも調査に乗り出しているが、原因は不明だとか。
(鉱山での異変……? 何か引っかかるな)
俺は商人に礼を言い、別れた。ドワーダルは、ただ活気があるだけの街ではなさそうだ。だが、危険がある場所には、それだけ多くの経験値や、あるいは思わぬ発見があるかもしれない。
さらに数日旅を続け、ついに俺たちの目の前に、目的地の鉱山都市ドワーダルがその姿を現した!
その光景は、アッシュ村とは比較にならないほど壮大だった。巨大な山脈の麓に位置し、まるで山そのものをくり抜いて造られたかのような、巨大な城壁がそびえ立っている。街のあちこちからは鉱山から出るものだろうか、白い煙が立ち上り、城壁の向こうからは、多くの人々の喧騒が風に乗って聞こえてくる。城門の前には、様々な荷物を積んだ馬車や、武装した冒険者、屈強なドワーフ、身軽そうな獣人など、多種多様な人々が行き交っていた。
「……すごいな」
思わず感嘆の声が漏れる。アッシュ村のような辺境とは違う、本物の『都市』の迫力だ。
「ぷるぅ……(大きい……)」
「きゅる!(活気があるな!)」
プルとリンドも、初めて見る大都市の光景に目を輝かせている(ように見えた)。
俺は都市の巨大な正門を見上げ、隣のリンドの首筋を叩いた。
「ここが新しい拠点だ。この街で、俺たちはさらに強くなるぞ!」
新たな冒険への期待と、未知なる環境へのわずかな不安。それらを胸に、俺たちは活気あふれる鉱山都市ドワーダルへと、第一歩を踏み出した。
この街で何が待ち受けているのか。今はまだ、想像もつかない。




