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スキル進化の実感と迫り来る影

「試練の洞窟」からアッシュ村への帰路は、以前にも増して迅速だった。レベルアップした俺たちの足取りは軽く、何より手に入れた新たな力への期待感が、疲労を忘れさせてくれた。


 宿屋の自室に戻るなり、俺は早速、進化した【収納∞】の能力を改めて確認した。

(経験値貯蓄効率75%…これは大きい。レベルアップの速度が格段に上がるはずだ。分配ロス軽減も地味にありがたい)

 そして、最も気になるのは『時間停止空間』だ。俺は試しに、昨日買ったばかりのリンゴを一つ、その特殊な収納領域へと入れてみた。スキルを発動すると、頭の中に通常の収納スペースとは別の、小さな箱のようなイメージが浮かび上がる。そこへリンゴを転送する。


(容量制限あり、か。今はリンゴ100個分くらいのスペースかな? それでも十分すぎる)


 しばらくしてからリンゴを取り出してみると、驚いたことに、入れた瞬間と全く同じ状態――瑞々しさを保ったままだった。これなら食料の長期保存はもちろん、鮮度が命の薬草や、あるいは……使い方次第で色々な応用ができそうだ。


「ぷるぷる!(すごい!)」

「きゅるる…(不思議…)」


 プルとリンドも、俺が虚空からリンゴを出したり消したりするのを見て、不思議そうに、そして興奮したように声を上げる。


「この力があれば、もっと強くなれるぞ、二人とも」


 俺が言うと、二匹は力強く応えてくれた。


 翌日、俺たちがダンジョンで採取した鉱石や、討伐した魔物の素材を村の商人(といっても行商人に毛が生えたような規模だが)に売却すると、ちょっとした騒ぎになった。「試練の洞窟」は長い間、村人たちにとっては「近寄らない方がいい場所」だったからだ。そこから無事に帰還したばかりか、相当量の成果物を持ち帰った俺たちへの見る目は、明らかに変わっていた。


「レント君、あんた一体何者なんだい? あの洞窟に潜るなんて……」

「大した従魔を連れてるもんだねぇ」


 村人たちから驚きと称賛の声が寄せられる。宿の女将さんも、俺たちを見る目が以前にも増して優しくなり、時にはサービスで料理を一品多くつけてくれることもあった。少しずつだが、この村に俺たちの居場所ができつつあるのを感じていた。


 稼いだ金で、俺は自分の傷んだ革鎧を新調し、切れ味の鈍っていたショートソードも、少しだけ質の良いものに買い替えた。プルには好物の甘い木の実を、リンドには上等な干し肉をたっぷりと買ってやった。ささやかだが、確かな充足感がそこにはあった。


 しかし、そんな穏やかな日々は、長くは続かなかった。

 数日後、村に立ち寄った行商人から、新たな噂がもたらされたのだ。


「いやぁ、驚いたね。アッシュ村から二日ほど離れた街道の関所でさ、王国騎士団が大掛かりな検問をやってるんだよ。なんでも、重要な『逃亡者』を探してるって話でねぇ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の背筋に冷たい汗が流れた。関所での検問? 逃亡者? それが俺のことではないという保証はどこにもない。


 さらに追い打ちをかけるように、数日後、村の木こりが血相を変えて役場に駆け込んできた。

「み、見たんだ! 村のすぐ近くの森で! キラキラした鎧を着た連中が、何人もウロウロしてた! 間違いない、騎士団の連中だ!」


 騎士団は、もう関所や遠くの森ではない、このアッシュ村の目と鼻の先まで迫ってきていたのだ。


(まずい……! このまま村に留まるのは危険すぎる)


 すぐにでもこの村を出て、さらに辺境の奥深くへ逃げるべきか? だが、プルと、そして何よりまだ完全に飛行できないリンドを連れて、追手から逃げ切れるだろうか? 下手に動けば、かえって見つかる危険もある。


 俺は宿屋の部屋で一人、思考を巡らせた。窓の外では、何も知らない村人たちが穏やかに暮らしている。プルとリンドは、俺の不安を感じ取ったのか、静かに足元に寄り添っていた。


(……逃げるだけじゃない)


 俺は、ダンジョンで手に入れたスキル強化の感覚を思い出す。あの力があれば。そして、日に日に頼もしさを増していくプルとリンドがいれば。


(そうだ。俺たちには力がある。戦う力が)


 もちろん、真正面から騎士団とやり合うつもりはない。だが、もしもの時が来たら、ただやられるつもりもなかった。


 俺は覚悟を決めた。

「……プル、リンド。少しの間、面倒なことになるかもしれない。だが、心配するな。俺がお前たちを必ず守る」


 俺の言葉に、二匹は力強く応える。

 俺は窓の外を見つめた。迫りくる脅威を睨み据えるように。


「もし来るなら……後悔させてやる」


 追放された日から始まった俺の逆襲劇は、新たな局面を迎えようとしていた。

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