表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/104

お父様方、娘って溺愛……其の二

 一昨日の午後六時台、娘の高校から電話がありました。

 受験生なので進路に関する話かと思ったのですが、先生が話し始めたのは……


 その日の朝、学校に向かうバスに乗るためバスターミナルに居た娘に女性が話しかけてきた。

 「遠方の家に帰りたいのだが、スマホも現金もないのでお金を貸してほしい。」そう言われた娘は、夕方五時に再び会ってお金を返してもらうことを約束し、二千円を貸した。


 先生は、その後どうなったのか、事件に巻き込まれたりしていないか、と心配し電話してきたのでした。

 娘はいつものごとく学校帰りに真っ直ぐ塾に向かっているはずなので、当然帰宅していません。そんなことになっているなんて、わたくしは初耳です。

 わたくしは先生に、

 「お金は返ってこないでしょうね。娘に連絡してみます。」

 と言って、電話を切りました。


 とりあえず、娘にLINEを送りましたがすぐに返信はありません。先生も待っていることですし、電話をかけましたが、通話中か通信中となって出ません。

 鬼のわたくしもさすがに少し心配になってきましたので、塾のLINEに連絡しました。普段電話などしないので、電話番号がすぐにわからなかったのです。

 夫もすでに帰宅していましたので、夫の携帯からも娘に電話しました。

 ちょうどそのとき塾の先生が娘に声をかけてくださったらしく、夫がわたくしに携帯を渡してきました。


 娘が電話に出られなかったのは電源を切っていたからとのこと。塾に居る人間の行いとしては正しいのですが、こんなときはヒヤヒヤしますね。

 そして娘に事実確認をしたところ、やはり女性が待ち合わせ場所に来ることはなく、当然お金も返ってこなかったそうです。


 とりあえず娘の無事が確認できたことに安心し、お金が返ってくることはないよと伝えている最中にです。

 夫が、「なにやってんだよ!」と怒鳴り始めました。またいつものです。

 電話中ですし、さすがにわたくしも頭にきたので「パパは放っておいて」と娘との話を優先し、先生も心配していたことを伝え、電話を終えました。


 その後、先生にも娘の無事とお金は返ってこなかったことを伝え、この件は一段落つきました。


 ですが、今回の夫の態度は見過ごすことができませんでした。

 たしかに、お人好しが過ぎますし、世間知らずにもほどがあるとは思いますが、娘は被害者です。悪いのは騙す人であって、騙される人ではないはずです。

 それに、こんなときに怒鳴って叱ってしまうと騙される自分が悪いのだと誤解し、大人に相談すること自体しなくなってしまうかもしれません。若かりし頃のわたくしのように。そうなってしまったら、もっと重大な事件に巻き込まれる可能性もあります。

 ですから今回はそう夫に伝えました。夫は面白くなさそうな顔をしていましたが、少しはわかってくれたと思います。でも、よほど面白くなかったのか、気まずいのかわかりませんが、この日は早々に自室に入ってしまいました。


 帰宅した娘に、改めて詳しく事の顛末を聞きました。

 その日は珍しく娘以外の人がバス乗り場に居なかった(遅刻ギリギリの時刻だったからでしょう)こと、女性は二十歳くらいの若そうな人だったこと、本当に困っていて申し訳なさそうに見えたこと。

 親バカでしょうが、我が娘は本当に優しい子なんだなと思いました。


 それにしても、お前ちょっと考えろ、とツッコミたいことはたくさんあります。

 相手の名前と電話番号くらい聞け、とか、遠方(百キロくらい離れた市でした)まで二千円ぽっちで帰れるわけないだろ、とか、そんなところからまた夕方に戻ってくるわけないだろ、などなど。

 すべて、あとから冷静になって考えてみればわかること、なのでしょうけれどもね。


 ですがなにより、娘にきちんと世の中を教えられていなかった自分を反省しました。

 貸したお金は返ってくると思うな、という話はしたことがあったと思うのですが、重みが足りなかったようです。返ってこなかった二千円は勉強代ということで、少し痛い目に遭ったほうが身に染みるでしょう。

 ほかにもいくつかの犯罪の可能性などを注意、確認しておきました。


 ここで皆さま、何かお気付きになりませんか?

 娘の今回の被害額が二千円。わたくしのエステ被害額は約二百万円。

 はい、わたくし、娘の千倍の勉強代を支払っているのでした。

 ここやたいていの場所では笑い話にできますが、夫には口が裂けても言えません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ